元気な工務店
低エネルギーと快適な暮らしの両立
取材日:2023/02/28
シノザキ建築事務所(札幌市)
シノザキ建築事務所は2006年8月の創業から今年で17年目を迎える。消費エネルギー、CO2排出量、暮らしのライフサイクルコストが少ない「3LOW(スリーロウ)」の家づくりを追求。自然素材を生かした上質な空間の提案でも多くのユーザーから高い支持を得ている。カーボンニュートラルや創エネなど時代の変化に沿った新しい価値を取り入れながら、自然の恩恵を暮らしの豊かさに結び付ける同社の家づくりについて、篠崎廣和社長に聞いた。
環境問題に貢献したい
同社のスタッフは設計・監理が2人、インテリアコーディネーターが2人、現場補助スタッフが1人、大工職人が5人の計10人。創業当初からほとんど規模は変わっていない。
受注できる棟数に限りがある中で、2022年は7棟の新築注文住宅を受注。平均受注額は約4500万円と、札幌市内でも高価格帯の顧客層が中心となっている。
もちろん建築資材価格高騰の影響は大きいが、それ以上に断熱性能や耐震性能、高効率な設備や創エネ設備など、あらゆる面でより高い水準の住宅が求められる時代になってきたことが大きい。
性能だけではなく、それぞれのユーザーの生活に合った機能性やデザイン、素材の質感や温かみ、すべてを追求していくと、どうしてもコストが上がり、顧客層が限られてしまう。
ただ、篠崎氏は「それが一番、資源やエネルギーが無駄にならない住宅。元々、木が大好きで建築に携わっているので、企業としてCO2削減や環境問題に貢献していきたい思いがある」と話す。

自然素材が空間のアクセントに
集大成のシステム
創業当初からQ値1.0水準の高断熱・高気密と長期優良住宅認定、省令準耐火構造を全棟で標準としてきた。北海道でも夏の暑さ対策が必要と考え、初期のころは付加断熱に遮熱性能が高いアルミ箔面材付きの硬質ウレタンボードを採用。
充填断熱は熱容量が大きく吸放湿性に優れたウッドファイバーで、冬の暖房は輻射熱の快適さを重視し、薪ストーブやペレットストーブを積極的に取り入れている。基礎スラブに温水パイピングを施し、床下から温めるスラブヒーター床暖房を採用する場合もある。
こうしたこれまでの家づくりの知見を集大成として形にしたのが、現在特許申請中の「ラディアント・サーキュレーション(輻射熱循環)住宅」だ。
屋内の最上部から床下まで一直線につながる風道を設け、上階に溜まる暖かい空気を風道から消費電力の小さいDCモーターファンで床下空間まで一気に引き下ろす。この循環により、建物全体の温度、湿度、CO2濃度を均一にする。空気が隅々までよどみなく動くように計算し、夏は床下の涼しい空気を、冬は薪ストーブなどの熱源から放射される輻射熱を家中に巡らせる。
この仕組みを採用した最初の1棟が2020年8月に完成。以来、全棟に採用している。篠崎氏は「いかに低エネルギーで快適な環境を作り出すか、一番いいと思う形に落とし込んだ」と、自信を持って打ち出す。

吹き抜けから光が降り注ぐ
オフグリッドの安心
さらに昨年春以降は、太陽光発電の採用も増えてきている。機械設備に頼りすぎないシンプルな自然志向の家を理想としつつも、エネルギー価格が高騰し、国を挙げて創エネ推進に向かう中で、顧客にとって必要なメリットは取り入れていくべきと考える。 昨年12月、札幌市北区に完成した延床面積149.68㎡の新築住宅は、南東向き、勾配6寸5分の大屋根に12.96kWの太陽光発電パネルを搭載。敷地内に落雪し、冬でもある程度の発電が見込めるよう設計した。
また、合計容量10kWの蓄電池も備え、夏の発電量を売電だけではなく最大限に自家消費に回せるようにした。暖房は薪ストーブ1台。「施主の希望もあり、真冬に停電が起きても安心して暮らせるオフグリッド住宅を目指した」と言う。
集客手段はほぼ自社Webサイトのみだが、完成見学会や毎月開いている相談会「しのカフェ」には、同社の家づくりに共感するユーザーが途絶えることはない。
「数ある住宅会社の中からお客様に見つけてもらい、一緒に家づくりができるのは、結婚にも似た奇跡的な出会い」と篠崎氏。低エネルギーで快適、住むだけでCO2削減に貢献できる住宅を「これからも需要がある限り作り続けていきたい」と話す。

薪ストーブの輻射熱で家中を暖める