元気な工務店
地元の木で建てる自然素材の家

取材日:2023/03/30
キタ・クラフト(上川管内下川町)
面積の約9割が森林という下川町は、伐採・植林を60年サイクルで持続的に行う循環型森林経営を行い、森林の恵みをすべて生かすゼロエミッションにも力を入れている。そんな下川町に根を張るキタ・クラフトは、20年以上前から地元の木を使った自然素材の家づくりを実践してきた。ウッドショックや環境問題への関心の高まりから国産材の活用が見直されている昨今、先駆けてきた加藤滋社長に話を聞いた。
大工二人で年2棟
キタ・クラフトは加藤氏を含む大工二人で、年間2棟ほどの戸建を丁寧に建てている。現在手掛けているのは宗谷管内枝幸町の住宅。地元の漁師の家で、目の前にオホーツク海が見渡せる。施主は小学生の子どもがいるファミリー。主人のHさんはキャンプが好きなこともあり、「家のイメージも自然な雰囲気を望んでいた」と話す。
以前からキタ・クラフトの事務所の前を車でよく通り、木の外観や店内の薪ストーブなどが気になっていたという。自宅を新築するにあたってホームページを調べたら、好みのデザインにぴったりだったので迷わず依頼したそうだ。
新しい家はこの4月に完成する。土間に薪ストーブを設置し、壁は漆喰。階段の板まで加藤氏が木を削り、一枚一枚仕上げた。
「大工による自然素材の家づくり」が加藤氏の持ち味だ。木材はできるだけ地元の下川町産を使用。予算によるが稚内珪藻土や羊毛断熱材、自然塗料を勧めている。薪ストーブで暖まる高気密高断熱性能や、空気の流れを利用したパッシブ換気の採用も特徴とする。

中川町産の広葉樹をはじめ自然素材をふんだんに(中川町の家)
木が身近にある町
加藤氏は東京生まれだが、20代で北海道に渡り、ログハウスビルダーとして修行を積んだ。そこで本物の木の温かさや風合いを体感し、木を使った建築物を自分の手で作りたいと思うようになった。
建設会社に転職し、大工として一通りの技術を磨いた後、1998年に移住を決意。「木が身近にある町を探した」と言い、当時から森林を活用した地域の活性化を進めていた下川町に行き着いた。
下川町森林組合は町産材の商品化や林業従事者への移住誘致など、さまざまな取組みを行なっていた。その縁から地元の工務店に入社。3年後の2001年には独立し、キタ・クラフトを創業した。
「下川町にいれば良い木が身近に手に入る」と加藤氏。地元の森から切り出したトドマツやカラマツの針葉樹、ナラ材をはじめ多彩な広葉樹を原木から吟味して選べる。工業製品として既製の板を買うのとは違う醍醐味がある。
「原木で見るとほんとうにきれいな木製品になるのかと思われるが、削っていくと美しい木目が現れる。そこがおもしろい」と加藤氏は話す。
窓のカウンターや階段の踏板は、原木の外側の部分を残した耳付きをよく使うとも。広葉樹の耳付きの板は流通が少ないが、下川町には広葉樹専門の製材会社があり、手に入れやすいのも強みだ。

風景もインテリアに。キッチンは家具職人が製作(中川町の家)
木が映える手法を
昨年は建築家とコラボレーションした。施主の希望による分離発注で、HOUSE&HOUSE一級建築士事務所(札幌市)代表の須貝日出海氏が設計、加藤氏が施工を担当した。
施主は上川地方北部の中川町の移住者で、林業に従事し、木の造詣が深かった。須貝氏は森からはじめる地産地消の家づくりをテーマにしている。方向性は皆同じだった。
そうはいっても加藤氏が須貝氏と組むのは初めてのこと。「最初はうまくやっていけるか心配していた」と明かす。引き受けたのは、建築家との仕事は得るものが大きいだろうと思ったからだった。
自分の知らない、あるいはやらないようなディテールを設計する。感心したのは、木が映える使い方をすること。一つの空間に木を使い過ぎるとうるさくなる。須貝氏は、例えば白い漆喰の壁を背景に木の柱や天井を合わせるなど、木を良く見せる手法をふんだんに持っていた。
「良いところは今も活用させてもらっている」と加藤氏は笑う。外の風景を取り込むような窓のレイアウトやデザインも学ばせてもらった。中川町の家は雪降る前の11月に完成した。須貝氏との付き合いは今も続いている。
加藤氏が「自然素材の家」を始めた20年以上前は、今ほど素材にこだわる工務店は多くなかった。「木が好きだから」という思いで続けて、少しずつファンが増え、施工エリアも広がった。今後のことを尋ねると、「本物を追求していくしかない」と力を込めた。

建築家と協働して建てた中川町の家