住まいの話題

国産畳表の価値を知る② 畳を後世に残し、世界へ挑戦

畳に価格差があるとき、価値としてどのくらいの違いがあるのか。その見分け方と顧客への提案方法を学ぶ「畳表提案力アップ研修会」が、8月30日に札幌市産業振興センター(札幌市白石区東札幌5条1丁目)で開かれた。主催は、いぐさ・畳表生産者と畳製造者をつなぐ全国い産業連携協議会。

第2部は、久保木氏が「熊本畳表 私の提案方法と畳文化の情報発信」と題して講演した。久保木氏は建設会社勤務を経て、2020年に実家の久保木畳店に入社。経営改革により、赤字続きだった会社を1年後に黒字体質へ転換。今年6月、先代から引き継ぎ、社長に就任した。

胸を張って勧める

久保木氏は入社当初、畳の品質の違いが分からず、顧客に尋ねられても答えることができなかったという。そこで、いぐさ生産地の熊本県八代市に毎年通い、農家の人から直接学ぶことにした。収穫を手伝ったり、乾燥窯から取り出したり、毎日一緒に生活しながら、どういういぐさがいいのか、違いはどこにあるのかを聞き、知見を得た。 「丈夫さと美しさの両方が必要」と久保木氏は話し、二つの畳表のサンプルを掲げた。最高品質のSランクと廉価なCランクで、どちらも表面を日焼けさせている。Sランクは、色にムラがなくきれいに焼けている。一方、Cランクは黒ずみが出ている。また、厚みも触ってみるとSランクの方がしっかりしている。 「お客様にサンプルを見せると皆さん、全然違うねと言う」と久保木氏。以前は、顧客に「安いのでいいよ」と言われるとその通りにしていたが、「今では、この丈夫で美しい畳の方がお客様にとっていいですよと胸を張って言えるようになった」。その結果、Sランクの取り扱いが年々増えていった。

ふさわしいものを

提案方法の事例として、久保木氏は、埼玉県深谷市にある旧渋沢邸「中の家(なかんち)」の大規模改修工事について話した。畳の張り替えにあたって元請の清水建設(東京都)は、施主の深谷市の基準に従い、低価格なJAS2等品を想定していたという。 久保木氏は下請の工務店から畳の見積もり依頼を受けた。その時、現代日本の礎を築き、新一万円札の肖像になった人物の旧邸にふさわしい畳を提案する必要があると考えた。 熊本県の畳問屋に相談し、14年間使われてきれいな色に焼けた畳表を貸してもらった。それを見本に提案書を作成したところ、最高級畳表「ひのさらさ」の採用が決まった。清水建設の担当所長は、「他の予算を削ってでも良い畳を採用したい」と言ったそうだ。「やはりお客様のためになるものを提案したい」と久保木氏は思いを語った。

畳文化を発信する

久保木氏が入社してすぐに取り組んだのは、ムダを無くすことだった。経営管理に取り組み、工場の整理整頓を徹底した結果、利益とスペースが生まれた。そうして工場を改装し、昨年4月に畳の複合体験施設「TATAMI VILLAGE(畳ビレッジ)」をオープン。メディアにも取り上げられ約1万人が来場し、インバウンドの来場者も増えている。 また、畳を世界へ広めるため「畳コースター」を作り、入社3日目に渡米してニューヨークの雑貨ショップや飲食店を訪問したエピソードも披露した。4年たった今、取引先は27ヵ国に広がっている。 久保木氏は、「畳を後世に残し、世界への挑戦を続けていく」と締めくくった。

 

畳の複合体験施設をオープン