北方型住宅のこと
北方型住宅ZEROを未来に誇るために
取材日:2023/03/15
北海道の家づくりの未来を考える会
旭化成建材(東京都)北日本支店札幌住建・断熱営業課の呼びかけで発足した「北海道の家づくりの未来を考える会」はこのほど、「2030年、そして未来に誇れる住まいづくり ~北方型住宅ZEROを考える~」と題し、北海道建設部建築指導課と道内各地の工務店9社の代表者による意見交換会を開催した。「ゼロカーボン北海道」の実現に向けてこのほど新設された「北方型住宅ZERO」について地域工務店の理解を深め、道の施策に現場の生の声を反映させるための取組みだ。
制度の目的を共有
意見交換に先立ち、道建築指導課長の清水浩史氏が「北方型住宅ZERO」の概要を解説。その後、各工務店が制度についてそれぞれの意見を述べた。 参加したいずれの工務店の代表者も、同制度で評価する脱炭素化の取組み内容については肯定的で、実際に取り組む際のハードルも高くはないとしながらも、それぞれの地域の実情による課題を指摘した。
芦野組(旭川市)常務取締役の芦野優作氏は「降雪量の多い旭川市では太陽光発電ありきの制度は問題。目的はCO2削減なのだから、その手段は多様であっていいはず」と強調。 同社は現在、地域特性を盛り込んだ省エネ住宅のアプローチとして、主暖房が薪ストーブ1台という住宅づくりに取り組んでいるが、北方型住宅ZEROの評価配点では「(認定基準の)10ポイントには届かないかもしれない」と懸念を示した。
岡本建設(十勝管内幕別町)取締役常務の髙橋隼人氏は「一般ユーザーの認知度の低さが気になる」と指摘。同社は省エネ基準適合住宅について説明する際などに北方型住宅2020のことも説明しているが、「現在のようにインセンティブがない中で、どれだけの工務店が周知に努めるだろうか」と疑問を呈した。
カイトー商会(釧路市)取締役部長の米本晋太朗氏は「燃焼機器が主暖房であることがベースの北海道の現状は脱炭素を目指すうえで大きな課題」との問題意識を示し、従来からの仕様変更を迫られる工務店もある中で「どのようなスピード感で制度を普及させるのかが問われる」と道の施策の推進力に注目した。
こうした意見を受けて清水氏は道の立場から回答。芦野氏に対しては「薪ストーブの有効性は理解しており、JIS規格が制定されるなど環境が整えばポイントを見直していく」と今後の可能性を示唆した。
髙橋氏の疑問に対しては「どのようなインセンティブがあれば周知に取り組みやすいか、ぜひ工務店からの意見がほしい」と要望。米本氏には「省エネ基準の適合義務化を見据え、今から北方型住宅ZEROの普及に取り組んでいく必要がある。スピード感を持ちながら進めていきたい」と述べた。
メリットを伝える
キクザワ(恵庭市)専務取締役の菊澤章太郎氏は「多様な選択肢を持って取り組める形なのはありがたい」と同制度を評価しつつ、「ユーザーに訴求するにはコストメリットを見える化できるかが重要」と普及に向けた要点を強調。 また、10ポイント達成で終わりではなく、15、20とポイントが高いほどさらに付加価値が付く仕組みも提案した。 住まいのウチイケ(室蘭市)商品企画室長の成田智昭氏は「現状では顧客に北方型住宅ZEROと言っても響くものがないので、営業で提案するのは難しい。伝え方に工夫が必要」と指摘。
大鎮キムラ建設(苫小牧市)代表取締役社長の木村匡紀氏は、昨今の光熱費の高騰で顧客の関心が住宅のエネルギー消費量に向いていることから、同制度について「消費エネルギーからわかるように伝えるとユーザーに興味を持ってもらえるのでは」と提言した。
武部建設(岩見沢市)常務取締役の武部豊孝氏は「ポイント制は顧客にわかりやすい。内容も取り組みやすいが、薪ストーブをもっと評価してほしい」と意見。さらに、「10ポイントを超えて高得点が評価される仕組みになればより高次元の脱炭素住宅ができるのでは」と提案した。
辻木材(北斗市)代表取締役の辻将大氏は「北方型住宅や高断熱住宅は特殊なものではないと工務店が認識を共有でき、まず何から取り組めばいいかわかる資料があるとよいのでは」と述べた。
また、補助金を普及のインセンティブとすると、その時そのタイミングで建てた人しかもらえないため、「制度本来の在り方としてそれが正しいだろうか」と疑問を呈しつつ、「地域に人を固定していく動機付けになるようなインセンティブの方が価値があると思う」との認識を示した。
藤城建設(札幌市)常務取締役(当時は企画開発部長)の川内玄太氏は「環境負荷の軽減というのは一つの手段で、そもそもの目的は顧客に幸せな時間を提供すること」と強調。「少量の太陽光発電で消費エネルギーを賄える高断熱住宅であれば結果としてユーザーの光熱費負担を減らすことができる」と、北方型住宅本来のあるべき姿について語った。
周知と普及に課題
続いてのテーマ、「制度の認知と普及について」では、ユーザーへの普及と、工務店への普及の両面の課題が指摘された。 工務店の間にも高性能住宅のノウハウや技術に関するレベル差があり、それぞれのレベルに合わせた理解促進が必要との認識で一致。「公的機関で工務店の技術的な悩みに答えてくれる窓口があれば取り組みやすい」といった意見も上がった。
また、仮に補助金があっても、「お金をもらって終わりでは本当の北方型住宅の意義がユーザーに伝わらない。ユーザー自身が主体的に知りたくなるような働き掛けが必要」との意見もあり、インスタグラムやインフルエンサーの影響力に注目した普及方法なども話し合われた。
さらに、長期的な視点として住教育の重要性も話題に上った。「自宅に設置した太陽光発電のことを4歳の息子に説明したら、太陽が出ている時におもちゃの電池を充電するようになった」といった身近な例のほか、「保育園や幼稚園の紙芝居で大工さんが主役の紙芝居を見せたら、住宅づくりがヒーローの仕事になる」といったアイデアも共感を呼んだ。
締め括りのあいさつで清水氏は「今後も意見交換の場を設けたい」としつつ、北方型住宅ZEROの地方展開についても触れ、「地域特性を生かしたゼロカーボン住宅を推進するため、地域の市町村の皆さんと一緒に取り組んでいきたい」と意欲を表した。