北方型住宅のこと

《第1回》ゼロカーボンヴィレッジ対談:始動から11日でオーナーと出会う

地域工務店と建築家が協働グループを組んで北方型住宅ZEROの住まいづくりを行う空知管内南幌町の「みどり野ゼロカーボンヴィレッジ」。現在11グループの基本プランが公開され、オーナーを募集中だ。工務店と建築家がどのような考えでこのプロジェクトに参加し、どのように協働していったのか、対談形式で内幕を聞くシリーズ。

第1回は紺野建設(十勝管内清水町)社長の紺野将氏と山本亜耕建築設計事務所(札幌市)代表の山本亜耕氏。「北方型住宅ZERO南幌モデル」で必須の壁面太陽光パネルを「ソーラーウォール」という大きな傾斜壁に配置し、壁の内側を半屋外の土間空間としたインパクト大の基本プランを発表し、すでにオーナーが決定している。両者はこのプロジェクトに参加するにあたり、共有した一つの思いがあった。

一番に決まるなら

 

外観と平面プラン

山本 僕らはお互いファーストネームでマサル、アコウと呼び合うことにしている。でも歳が離れていて呼び捨てはちょっときついから、マサルはアコウさんと呼んでくれています。

紺野 呼び捨てはちょっと…(笑)

山本 紺野(K)と亜耕(A)のパートナーシップだから「チームKAPS(キャップス)」。私が勝手に決めました。

紺野 いつの間にか決まっていた(笑)

山本 紺野建設さんとはこれまでも別件でいっしょに仕事をしてきた。先代の社長とは帯広市内で築30年の既存住宅の改修に取り組んだし、将とは去年、芽室町のコミュニティ施設を増改築するときにコンサルとして関わって、下地となる信頼関係ができていた。
それで、最初は他の工務店と組む予定だったんですが、相手の都合が悪くなって別のパートナーを探すことになり、将に「一緒にやらないか」と声をかけました。

紺野 当社は今回のプロジェクトの参加事業者に登録してはいたものの、5月に道が開いた設計事務所とのマッチングの説明会には予定が合わなくて参加できませんでした。それで当初、まだパートナーが決まっていない設計事務所を亜耕さんが紹介してくれました。
ただ、自分は「やるなら絶対に一番に買い手が決まるようにしたい」と思っていて、そこがなかなか理解してもらえなかった。だから亜耕さんに誘われたときも「一番に決まるならいいですよ」と答えました。

山本 8月9日に最初の打ち合わせをして、翌日にはさっそく一緒に現地を見に行きました。一通り見て回って「この土地がいいね」と意見が一致したので、「絶対に一番に決めてやろう」と。先に決まった順に建設地を決めるルールなので。
そのためには情報発信が重要。次の日からすぐに自分のブログやフェイスブックで「紺野建設と一緒に南幌町でこんなプロジェクトをやります」と種をまき始めた。すると一週間ぐらいでもう問い合わせが来たんです。

紺野 チーム結成からわずか11日で(笑)

山本 札幌市内で数年前にハウスメーカーの注文住宅を建てた子育て世帯の方が、子供が大きくなって手狭になってきたので引っ越したいと、Webを見て相談のメールをくれました。
すぐに連絡してお話を聞くと、とにかく今の家が寒くて光熱費も高い。今度建てる家は絶対に暖かくて光熱費のかからない家にしたいと、スムーズに話が進みました。

協働は同じ目線で

山本 いまは専門の設計者がいて設計レベルの高い工務店も多い。設計事務所が全部考えて、工務店はその通りに作るという役割分担は取り払って、対等の立場で一緒に考えていこうと基本プランづくりが始まった。だから自分がまず最初の案を考えるけれども、将の方でも考えてほしいと言ってありました。

紺野 自分もアトリエ系の設計事務所出身だし、別会社で設計部門を持っているので、最初から同じ目線でいろいろ話ができました。

山本 壁面の太陽光発電パネルがどうしても取って付けたようなデザインになるので、どううまく取り込むか、いろいろなパターンを考えました。そこで将の方から出てきたタープのような傾斜壁、我々は「ソーラーウォール」と呼んでいますが、これが行けるんじゃないかと思った。
タープの下の屋外空間をどう使うかだとか、間取りの部分でも煮詰めないといけない点はあったものの、コンセプト段階からずっと話し合いながらやってきたので、お互いに知恵を出し合いながらこれでやってみようと決まりました。
ただ、実際のプランはこれとまったく同じものにはなりません。通常設計と同じように、オーナーの希望を聞きながらプランを作り上げていく。こう決めたからこう作るとこちらから押し付けるようなものではありません。
オーナーさんも急がずにゆっくり考えて決めたいと言っているので、着工は来年の夏ぐらいになるかもしれない。

売れるものづくり

山本 基本プランでは概算工事費4300万円で出していますが、なるべくそれぐらいに収めたい。 ゼロカーボンな北方型住宅を普及するというプロジェクトの趣旨を考えると、6千万円を超えるようなごく一部の人しか買えないものを提案するのはちょっと違うんじゃないか、どこに建てても売れる良質なプロダクト、定番ブランドのような建物が求められているんじゃないかと思う。紺野 まず売るということを前提に考えると、高額な一点ものではなく5棟でも10棟でも売れるハウスメーカーの建売住宅のような発想も必要だと思います。

山本 建築家はどうしてもハウスメーカーとは違うスペシャルなものを作りたくなりますが、面白いものを作るとお金がかかるし手間もかかる。資材価格が高騰して建築コストが2割以上も上がっているような状況で、常にその葛藤を抱えながらプランづくりに取組んでいます。