元気な工務店

断熱競争より性能の最適化を

住宅の高断熱高気密化の技術が進んでいる本道の中でも、常に先駆的な取組みを続けてきたことで業界に広く知られる渋谷建設(函館市)社長の渋谷旭氏。ZEHの普及にもいち早く力を注ぎ、そのノウハウを積極的に周囲に発信している。ただ昨今、あらゆる物価の高騰により、住宅を求めるユーザーの志向に大きな変化が表れてきている。地域の工務店が良質な省エネ住宅を提供し続けていくために何が求められているのか。トップランナーの考えを聞いた。

「e-housing函館」の創立メンバー

渋谷氏は断熱性能や省エネ性能の高い住宅の普及に取り組む道南地域の工務店グループ「e-housing函館」の創立メンバーとして、北方型住宅やZEHの住宅団地を企画するなど先進的な試みに主導的に携わってきた。

いま、国はカーボンニュートラルに向けた動きの中で、2020年に一度見送られた省エネ基準適合義務化をようやく正式に決定したが、渋谷氏は「全然遅いぐらい。自分たちは最初からそのロードマップを目指して進んでいる」ときっぱり。

ただその一方で近年、全国的に過熱気味の「断熱競争」に対しては一定の距離を置くスタンスだ。自身も数年前までは「UA値0.2を切らなければ」と、より高いレベルの断熱性能を追求してきた。しかし、これまでにない資材高騰が続き、住宅にかかるイニシャルコストがユーザーにとって現実味の薄いものになってきている今、「そこまでの性能が必要なのか」と感じることも多いという。

最適な断熱性能とは

同社が3年前に建てたモデルハウスのUA値は0.26W/㎡K。付加断熱のグラスウールの厚みは同社がそれまで標準としてきた300㎜から200㎜に減らしたが、サッシはLow-Eトリプルガラス樹脂サッシで、3地域ならば外皮性能による1次エネルギー消費量の削減率は25%以上になる。これに容量8kWほどの太陽光パネルを載せればZEHになる計算だ。

1、2地域だとこれより断熱を増やして高効率設備を入れたとしてもZEHになるとは限らないが、3地域ならHEAT20のG2グレードに相当するUA値0.28W/㎡Kを切れば十分にZEH化は可能。「逆にそれ以上に外皮性能を上げても1次エネルギー消費量の削減には寄与しない」という。

重要なのは一次エネルギー消費量を自分で計算すること。計算に慣れると、住宅の規模、外皮性能、設備の組み合わせで何をどう変えると削減率がどの程度になるか感覚的に理解できるようになる。

自身のノウハウをe-housing函館のメンバーなど他の地域工務店と共有することに積極的な渋谷氏は、それぞれの工務店が物件ごとに最適な省エネ性能を導き出すためには「一つの基本形を作っておいて、そこから条件に合わせて変化させていく方法が分かりやすい」と勧めている。

 

Semieモデルハウス

設備はシンプルに

同社のセミオーダー住宅「Semie(セミエ)」は、資材高騰による300万円ほどのコストアップを価格に反映し、現在は30坪のZEH仕様が2600万円(税別)からとなっている。

断熱仕様は、壁の軸間に高性能グラスウール16k105㎜、付加断熱にカネライトフォームスーパーEⅢを60㎜、基礎の外側にも100㎜、天井は吹込みグラスウール400㎜。サッシはトリプルLow-Eガラス樹脂サッシが標準。換気はスティーベルの第一種熱交換換気システムを採用。暖房はヒートポンプ式温水パネルを床下に設置。2階にも温水パネルヒーターを付ける。

「ハウスメーカーのように数百万円もする高効率設備を使わなくても3地域ならZEHにできる。ユーザーのことを思えば設備はこれぐらいシンプルでいい」という考え方に基づいた構成で、ZEH仕様の場合はこれに容量8.5kWの太陽光パネルを載せ、一次エネルギー消費量の削減率がおおむね101~102%になるという。

 

高級キッチンと無垢の床で差別化

負担増嫌うユーザー

同社の21年度の施工棟数に占めるZEHの割合(ZEH化率)は72%で、25年度までに100%とする目標を掲げている。ここ数年、一般ユーザーの間でも住宅の省エネ性能に対する関心は高まってきているが、物価高で生活コストが上がり続けている中、毎月の住宅ローンの支払い負担が増えることには慎重な傾向も顕著だ。

顧客にZEHを勧める際、「イニシャルコストを何年で回収できるか」という説明は付きものだが、最近のユーザーは将来的に元が取れることを説明しても、最初の借入額が上がることに強い抵抗感を示すという。

渋谷氏は「ただカーボンニュートラルと言ってもユーザーには伝わらない。省エネ住宅のメリットをまず工務店側がよく理解し、顧客の不安を取り除けるような伝え方を工夫していく必要がある」と強調する。
e-housing函館を含め、道内の工務店グループはこの2年間、コロナ禍で活動の場が制限されてきたが、ようやく少しずつ社会の動きが戻りつつある。

地域の工務店同士が互いの現場を見て学び合ったり、共同企画のイベントを通じてカーボンニュートラルの取組みを発信したりするなど、「点を線につなげる活動を続け、地域の工務店がユーザーから選ばれる状況をつくっていきたい」と意欲を見せる。

 

アウトドアを楽しめる家