元気な工務店

面倒で愛着がわくイエづくり

1972年に創業した神馬建設(日高管内浦河町)、その3代目社長が神馬充匡氏だ。同社は「家(house=建物)」ではなく「イエ(home=帰る場所)」と表現。快適に住めるような性能と、それぞれのライフスタイルに合った設計を施し、個性があり愛着を持って長く住めるイエづくりを行う。神馬氏は18年に社長となってから、社員の採用や社内勉強会、ワークショップなど同社にとって新たな取組みを展開する。イエづくりへの想いと新たな試みについて話を聞いた。

先代の仕事に学ぶ

神馬氏は高校卒業後、道内の土木系の会社に勤めていた。しかし、関東へ出張した案件で周辺住民の反対にあうなどの経験から、「次第に仕事の熱意をどこに向けてよいのかが分からなくなってしまった」という。 そんな時に浦河町へ帰省。先代が建てた家のオーナーと話す機会があり「父親の仕事をちゃんと見ているのか。こちらが想像していたより何倍も良い家を作ってくれた。父親はすごい仕事をしている」と言われた。その言葉を聞いて、顧客の顔が見える仕事がしたいと思い、地元へ戻って会社を継ぐことを決めた。

先代が顧客に対して見積もりを1ページずつ丁寧に説明する姿を見て、「そこまで面倒なことをする必要はないのでは」と疑問に思うこともあったが、いざ自分が顧客を担当した時、「それが信頼を重ねて責任を果たすということなのだと痛感した」と振り返る。今では、最初に「うちの会社で建てると面倒だよ」と顧客に伝え、イエづくりへの想いを書き綴った1枚の紙を渡して意識を共有している。「お客様も一緒に考えてイエをつくる。面倒をかけるほど、イエに個性が生まれ、愛着がわき、長く使い続けることができる」と神馬氏は話す。

将来を考えた設計

2022年6月に竣工した戸建住宅は3歳の子どもを持つ20代の夫婦が施主。フェノバボード45㎜を付加断熱、窓はLow-Eトリプルガラス樹脂サッシを採用し、UA値0.28W/㎡Kの仕様とした。さらに日射シミュレーションも行い、自然のエネルギーを活用して夏は涼しく冬は暖かい設計に。「光熱費がかさむ家では先々の暮らしが大変になるので、金額面で折り合わなくても妥協して性能を下げることはしない」と神馬氏。

何度も打ち合わせを重ね、巣立った子どものUターンや、両親との同居など将来を含めたイメージを顧客と共有。介護のことまで考えた広めのトイレ(1.2帖)や子育て中にもメリットがある外部スロープ、車椅子も通れる幅の廊下、間仕切りがなく自由度の高い14・3帖の洋室を設けるなど、移り変わるライフスタイルに対応するプランを考えた。

外観は古くからある住宅が建ち並ぶ地域と調和するようレンガ調に。施主夫婦が求める「かわいらしさ」と「シンプルさ」を満たすようイメージをすり合わせた。神馬氏は「奇抜さではなく、お客様に寄りそうことで生まれる個性をイエづくりに反映させた」と話す。

 

地域に馴染むレンガ調の外観

大工育成と町づくり

現在、浦河町には約50人の大工がいて、うち50歳以下は15人ほどだという。「20年間で人口は3割減少しているが、建築従事者は7割減っている。職人は当たり前にいるものではない」と神馬氏。 そのため、同社は大工の採用に力を入れる。小学校や高校の授業の中で建築について話すなど、積極的な発信を行い、過去3年で5人の中途採用を実現した。

また、大工の賃金を向上させる取組みも進める。①大工の道を極めるスペシャリスト大工②現場監督もやる工務大工③他の専門工事(屋根、クロス、左官など)もできる多能工大工――という三つの道を設け、それぞれのキャリアでどんな資格を取ればいいか、何を頑張ればいいかを分かりやすく示し、キャリアアップを促す制度を思案中だ。

さらに、このキャリア制度を確立したら、地域内の他社にも横展開していきたいと考えている。どうしても社風に馴染めず職場を移る場合でも、移った先が同じ評価基準を共有していれば、それまで積み重ねたキャリアが無駄にならず、大工の地位は向上していく。神馬氏は地元の浦河町を「苫小牧や帯広などの都市部から片道2時間以上かかる『陸の孤島』」と例えつつ、そうした地域性だからこそ「横のつながりを生かした大工育成ができる」と意欲を見せる。

建築業界だけではなく町全体の活性化にも目を向け、まちづくりや地域振興のイベントにも前向きに取り組む。商工会議所の青年部の会合や、地域の企業が主催するセミナーに参加し、積極的に異業種との交流を図っている。また、地元の店舗の改修工事をワークショップとして開催する試みや、子育て世代の父親を集めた椅子づくり体験会なども行う。「浦河町が、愛着を持ってモノや人を大切にするコミュニティになれば」と期待を込める。

 

ワークショップの様子