北方型住宅のこと

《第3回》ゼロカーボンヴィレッジ対談:太陽光発電ありきではなく

地域工務店と建築家が協働グループを組んで北方型住宅ZEROの住まいづくりを行う空知管内南幌町の「みどり野ゼロカーボンヴィレッジ」。現在11グループの基本プランが公開され、オーナーを募集中だ。工務店と建築家がどのような考えでこのプロジェクトに参加し、どのように協働していったのか、対談形式で内幕を聞くシリーズ。

第3回は武部建設(岩見沢市)社長の武部豊樹氏と一級建築士事務所アトリエmomo(札幌市)主宰の櫻井百子氏。2018年に分譲を開始した南幌町みどり野きた住まいるヴィレッジからタッグを組み、「てまひまくらし」と名付けた住宅を5棟手掛けている。今回、自然エネルギーをさらに多用した「てまひまくらしplus(プラス)」を提案した。

地域を良くする家

外観と平面プラン

櫻井 てまひまくらしを北方型住宅ZEROの基準に合わせたらどうなるのかに答えたプランです。これまで南幌町で建ててきた住宅の暮らし方や価格帯などを踏まえ、最初からしっかりイメージができていました。

武部 太陽光パネルをどういう風に設置するのか。テラスの手すりに付ける案は、これしかないと思った。デザインと機能性のバランスをとると屋根に設置するのは薦めない。家全体の形を決めるのに屋根は重要だし、落雪などさまざまなリスクが出てくる。

櫻井 壁面に設置しても、私と武部さんのスタイルだと庇を出したいからパネルに影ができてしまう。それを解決したのがテラスの手すりでした。 実は暮らしのすべてを太陽光で賄おうと思っていなくて。北方型住宅ZEROのすごいところは、太陽光発電ありきのZEHではなく、地域に合わせたメニューを選択して小さな積み重ねでゼロカーボンをクリアしていくこと。とても共感できました。

武部 薪ストーブやバイオマスも評価に入っている。その薪も地域社会、つまり生活圏内から出る林業の間伐材を使うとよりゼロカーボンに近づく。そうした地域の林業とのつながりまで顧客に「見える化」すると、われわれ地域工務店が家を建てる意味が増すと思う。

櫻井 私は日頃からお客様に言っているんですけど、家を建てるってすごくお金がかかる。でもその使い方によっては、自分の大事なお金が地域を良くする可能性があるんですよね。 地域材を使うことで、少なくなった木こりさんたちの仕事や森を守るためにお金が回り、ちゃんと自分にも返ってくる。お父さんが子どもたちに「この家は地域を良くしたんだよ」って自信を持って言えるようになるんです。

エネルギーを配分

櫻井 太陽光は電気に変えるだけでなく、そのまま熱としても使いたいから太陽熱温水器を付けました。お湯は温水暖房と給湯に使い、足りない分はエコジョーズで補います。あと、南幌町は風の街だから、地域性を生かしたくて小さな風力発電も提案に盛り込んでいます。必須設備ではないんですけど、そこまで私たちは考えていることを知ってほしくて。

武部 北方型住宅ZEROの要件を満たしたら、今までの住宅より高くなる。例えば3500万円だったものが4000万円を超える。顧客はその中身を納得した人でないと。納得してもらうためには櫻井さんが言うように、もう一歩二歩踏み込んで、使うエネルギーがどういう配分で、どう使われるか説明する必要がある。

櫻井 床下の温水暖房の熱をパッシブ換気で家中に回し、薪ストーブを併用します。できるだけ空間を小分けにしない工夫もしています。 武部 この空間だったら薪ストーブ一台でも十分賄えると思う。

重なる部分が多い

櫻井 武部さんと基本設計の段階から一緒に考えるというのは、すごくいいことばかりです。建物本体だけの見積もりを出していただき、概算が見えたら、あとは実施設計でどんな材料を使ったらいいか、工法とか相談しながら進めていけるのは建主さんにもメリットがある。みんな仲良くなってチーム感も出るんです(笑)。

武部 設計段階で一体となって図面を描くと、実設計での施工図が少なくなるから実に効率がいい。ただ、一番大事なのは作るものに対する考え方が一致しているか。一致していなくても重なる部分が多いか。

櫻井 重なっていたからこうして続いています。

武部 もうかなりお互いのことが分かっているから、図面を描く枚数も少なくなっているよね。

櫻井 てまひまくらしの1棟目からスタンダードな形ができましたよね。断面は同じで平面のプランだけ変えるように合理化できました。その分、設計料は建主さんにきちんと還元しています。 武部 棟数を重ねていくうちに設計施工の密度が高まった。磨かれて洗練されてきた。次はこのplusを建てないとね。磨かれるのが止まってしまう(笑)。