北方型住宅のこと

《第5回》ゼロカーボンヴィレッジ対談:建築とモビリティを連結する

地域工務店と建築家が協働グループを組んで北方型住宅ZEROの住まいづくりを行う空知管内南幌町の「みどり野ゼロカーボンヴィレッジ」。現在11グループの基本プランが公開され、オーナーを募集中だ。工務店と建築家がどのような考えでこのプロジェクトに参加し、どのように協働していったのか、対談形式で内幕を聞くシリーズ。

第5回はリノア(札幌市)代表取締役の松澤総志氏と石塚和彦アトリエ一級建築士事務所(同)代表社員の石塚和彦氏。ゼロカーボンヴィレッジで必須条件の壁面ソーラーパネルをオーダーメイドのトレーラーに搭載し、主屋と連結する。「建築×モビリティ」による新しい暮らしは、環境性能に加え、防災のレジリエンス性を確保。将来の家族構成の変化にも柔軟に対応できる。このアイデアは二人に共通の思いから生まれた。

拡張する居住空間

松澤 ソーラーパネルは住宅の屋根や壁につけるのが一般的だけど、それはしたくない。石塚さんとコラボレーションするのだから人と違ったものを作りたい。誰もやっていないことをしようというのがスタートだった。前々からトレーラーで遊べるよねっていう話は石塚さんとしていて。それでいろいろアイデアを出し合った結果がこれだったんです。

石塚 トレーラーハウスだけを考える人は結構いるのですが、建築とモビリティを一緒に考えるのは新しいと思います。住宅にトレーラーをつなぐと居住空間が拡張するんですよね。

松澤 今の住宅は、最初に家族で住めるように4LDKで建てて、将来夫婦二人になったらリフォームして減築しようという流れなんですよ。でも将来的に減るのが分かっていてそんな大きな家がいるのかなと。それなら初めから30年後を想定した小さな家にして、一時的に部屋を増やせるようにと逆の発想をしたんです。主屋は2LDKでもトレーラーを連結したら4LDKにも5LDKにもできる。子どもが独立したらトレーラーは売ってしまえばいいし、お店も開ける。

将来のゼロエネを

石塚 災害時のレジリエンスにしてもすごくいいんですよ。トレーラーだけで生活が成り立つので、電気やガスが来なくてもある程度暮らせる。主屋と切り離せるから、インフラが生きている場所に移動して復旧したら戻ってくればいい。

松澤 住んだ人が自由に考えられる。仕事もどこでもできる時代だから仕事場のように使ってもいい。ライフスタイルに合わせてどういう風にでも使える。

石塚 環境を考えても、家の性能云々より生活の仕方が重要だと思う。常に締め切って空調でコントロールする生活なら、それは電気代がかかる。コンパクトな家に暮らして、夏はアウトドアへと開放するほうが省エネになるのでは。

松澤 子どもたちも家の中でゲームばかりしていれば電気代がかかる。彼らは電気を買っているのを分かっていないし、どうやって発電しているかも知らない。もっと外で遊べるような環境や家づくりをしていかないとと思う。

石塚 その点、南幌町のヴィレッジはいいですよね。隣の敷地の境界線がはっきりしていなくて、庭など広がりがある。

松澤 今の時代、低予算というキーワードも大事。このプランだと主屋だけをきちんと断熱すればいい。無駄なものを作らないこと。空間を切り離せるから北方型住宅ZEROの性能を保ちつつ、そこだけ後から資産として売れるとか、壊さなくて済むとか。将来まで考えたうえでのゼロエネルギーを石塚さんと二人で話し合った。お酒を飲みながら(笑)。

石塚 こういう関係で仕事できるのがいいですね。

家づくりは対等で

松澤 南幌町とは、みどり野きた住まいるヴィレッジからの関わり。前の会社で営業をしていたんだけど、これからはデザインが大事と思い、建築家さんと仲良くなりたくて参加したんです。そこから何人か集まって一緒にデザインの勉強をしようと次世代の会が生まれた。工務店と建築家がつながって、学生やメーカーさんも参加して、みんなで協力し合う関係ができた。

石塚 建築家も変わりましたよね。昔は設計以外の仕事をするなんて建築家じゃないなど、そんな意見もちょっとありましたが。今は設計からずいぶん領域が広がっているように感じる。

松澤 私も昔は営業だけと言われていたけれど、今は大工もするし、図面も描くし、左官もなんでもやる(笑)。お客さんに対してもある部分でプロに頼むか、私でいいのか、それともお客さん自身でやるか、予算によって選択肢を提示する流れがある。施主施工や施主支給が普通にみられるようになってきた。

石塚 お客さんも家づくりのチームに入っていただくのが良いと思う。いろいろ考えてみんなで決めたことだからと納得できる家になる。

松澤 お客さんも建築家も工務店も対等でないと良いものが作れない。それを構築していきたいと思っています。