グループ活動
住宅5団体合同セミナー2年ぶり開催
取材日:2024/05/15
住宅5団体
(一社)北海道ビルダーズ協会、アース21、ソトダン21、eーハウジング函館、NPO法人パッシブシステム研究会の道内住宅5団体による2年ぶりの合同オープンセミナーが4月25日、アクセスサッポロ(札幌市白石区流通センター4丁目)で開かれた。「北方型住宅の快適性を考える」をメインテーマに、札幌市立大デザイン学部の齊藤雅也教授とTAO建築設計(札幌市)の川村弥恵子代表が講演。各団体の代表者による活動報告も行われ、全道各地から集まった各団体の会員たちが学びと交流を深めた。
道内の地域工務店が中心となって活動する住宅5団体が一堂に会し、北海道の住宅のあり方について情報交換や学び合いを行う合同オープンセミナー。今回が4回目の開催で、NPO法人パッシブシステム研究会が幹事を務めた。
同日、同じアクセスサッポロで開かれたキムラ(札幌市)主催の2024北海道ホームビルダーズショーとの相乗効果もあって、会場のホールは開会前から早々に満席となった。
メインテーマの「北方型住宅の快適性を考える」に関連して二人の講師が講演。札幌市立大デザイン学部の齊藤雅也教授は住環境の快適性を室温の暖かさ、寒さだけでなくより多様な観点から考える研究について、TAO建築設計の川村弥恵子代表は住空間をより豊かに味わうためのデザイン上の工夫について、それぞれの専門性から語った。
不均一で快適な空間
齊藤氏は、本道で発展してきた高気密高断熱住宅の技術によって「家中どこでも均一に暖かい環境が実現されている」としながら、一方で「熱や光、空気の動きなどに自然なむらがあって不均一な空間の心地よさがあるのではないか」と、独自のテーマで研究を行っている。
ポイントは一般的に室温の計測に用いられる空気温度ではなく、壁や床などの表面温度。冬でも厳寒期ではなく外気温が氷点下まで下がらないような日で、室温が20度を少し下回る時に室温より少し表面温度が高い場所、例えば薪ストーブや温水パネルなどの輻射暖房の近くにいると人体にかかるストレスが小さい、つまり快適に感じるというデータを紹介した。
また、夏は部屋を閉め切ってエアコンで均一に室温を下げていくと、ほどよく快適に感じられるのは特定の室温の時に限られるが、部屋の風通しを良くして日射をしっかりとさえぎった部屋では室温が少し高くてもストレスが小さいというデータを例示。「均一な環境をつくるというより、家の中に居心地のいい場所をつくり、不快ではない時間を増やすことが大事」と語った。
齊藤氏は2006年から札幌市の円山動物園の園舎の設計に携わっており、5月にオープンする「オランウータンとボルネオの森」にも「表面温度の異なる多様な居住環境」という同氏の考えが採用されている。 住宅に関しては現在、通風によって室内に自然な空気の対流をつくる「オープンクーリング」の実証実験を東京都内で行っている。エアコンから発する機械的な気流の不快感がオープンクーリングによってやわらぎ、室内の表面温度も変化するという実験の経過を説明した。
空間を味わう工夫
川村氏は、自身の設計で必ず取り入れているという五つの要素を紹介。一つは「中庭と借景」で、「周囲の状況に左右されない聖域のような場所を家の中に必ず作る」と語った。
二つ目は「回遊動線」。家事楽などの効率性だけでなく、「日常の動きに選択肢をつくることで住まい方、暮らし方に幅が生まれ、豊かになる」と強調した。
三つ目は「一本の映画を見るような空間体験」。家の中に入っていくにしたがって次々と異なる空間が表れ、光や空間の広がりなどがより劇的に感じられるような設計の工夫を過去に手掛けた事例から伝えた。
四つ目は「目に入る線を消す」。サッシを壁の中に収めて室内と中庭が直接つながっているように見せたり、造作家具も余計な線が見えない設計にしたりと、「空間の要素をより効果的に味わってもらうために徹底してこだわっている」という。
五つ目は「シンプルな姿に深みのある空間を込める」。事例として昨年、事務所の隣接地に建てた自邸を紹介し、光の取り入れ方や借景の切り取り方など、自身の設計に対する考えが随所に盛り込まれた邸内の見どころを解説した。
川村氏は「無駄な線を一本消すだけだとか、ほんの少し気を付けるだけでも設計は見違えるようによくなる」と語り、紹介した自身の手法が「少しでも参考になれば」と会場に呼び掛けた。