北方型住宅のこと

《第6回》ゼロカーボンヴィレッジ対談:可変性のあるL型の平屋

地域工務店と建築家が協働グループを組んで北方型住宅ZEROの住まいづくりを行う空知管内南幌町の「みどり野ゼロカーボンヴィレッジ」。現在11グループの基本プランが公開され、オーナーを募集中だ。工務店と建築家がどのような考えでこのプロジェクトに参加し、どのように協働していったのか、対談形式で内幕を聞くシリーズ。

第6回は松浦建設(札幌市)代表取締役の松浦邦充氏とエスエーデザインオフィス一級建築士事務所(同)代表の小倉寛征氏。小倉氏がベースを計画し、その中に松浦氏の得意とする部分、1m断熱やパッシブ換気などの技術を取り入れる形で進めた。性能の数字を争うのではなく、ゼロカーボンの暮らし方を提案することが大切というプランについて聞いた。

環境が形を決める

 

小倉

プランのポイントは、日の光をしっかりと受け止めるL型の形です。 南西側に開く形なので1日中どこかに日差しが当たる。壁面に太陽光発電パネルを設置して、南面だけではなく東西面からの日射、朝日や夕日でも効率よく発電ができるようにしています。

松浦 平屋というのは自然に決まりましたね。

小倉 私は、平屋は最高の贅沢だと思っているんです。広い敷地に恵まれた環境を全部使って、大らかに平屋でのびのびとした暮らしができる。

松浦 あと、南幌は風がすごいんですよ。2階建で屋根を施工するとき怖いだろうなと思うくらい吹くんです。平屋にはそういう発想もありますね。

小倉 平坦な土地なので自然環境の影響を受けやすいわけです。光の向きと風の向き、そういうところから建物の形を発想していく。

自由を支える骨格

小倉 スパンを短くL型に取ることで、短手の空間はほとんど中空で作れるんです。

松浦 短手の間隔が2間なのはそういう意図ですよね。

小倉 そう。だからこの間には柱は必要ないんです。そうすると、今の間取り図では居間と2部屋になっているけど、3部屋にもできるし、トイレの位置をずらすこともできる。2間で構造計算しているから、柱がないので自由に変えられる。それが骨格なんです。フレキシブルに変更できる構造計画。

松浦 お客さんが決まっていない中での提案なので、できるだけ幅広い層のニーズに応えられるようにデザインも価格帯も考えてますよね。
この2~3年で私の考え方が大きく変わって。自社物件だけをやるというのを目標にしてきたけれど、自分の中で手詰まりなところが出てきちゃったんですよね。
だから設計事務所さんとやると、全然違うからその楽しさがあります。やっぱり発想がちょっと違いますね。

小倉 一緒だと思いますけどね(笑)

住文化を作っていく

小倉 ゼロカーボンヴィレッジのプロジェクトが目指しているのは、雰囲気のいい町に理念を共有する人たちが集まって、楽しく仲良く暮らすということ。それを成すために技術とか性能があるんですよね。性能のために暮らしているわけじゃないし、技術のために家を作るわけじゃない。

松浦 この辺のコンセプトを理解してくれる方に、できれば買っていただきたいなと思いますよね。性能よく作るのはここに参加している以上当たり前なんですよ。でもその意図を理解していただける方にね。

小倉 きっと他のグループもみんな同じ志を持っていると思うのですが、ゼロカーボンヴィレッジ全体として出来上がった時に、あそこは北海道らしい暮らしが実現できているよねってなっていたい。それを見て、また違うエリアでもその土地らしい暮らしを実現したいっていう風に広がるといいですよね。
そうすると住文化というか、北海道らしい暮らしとか住まいの文化が発展する。

松浦 やっぱり未来に向けた挑戦をするということで、ここはちょっと私の中で商売とは別ですね。使命感じゃないですけど。

小倉 今地場で頑張ってる工務店や建築家の出番がどんどん減っている。
生活の根幹、「衣食住」の「住」を担っている大工さんや職人さんがみんないなくなってしまう。それは嫌だなって。
松浦さんをはじめトップランナーのビルダーの皆さんも、きっとこれで利益を出そうなんて思って参加してないわけです。利益なんか上がらないけど、自分たちがやっていることが本当は正しいと思っていて、その危機意識とプライドがある。
ゼロカーボンヴィレッジができたからって急に世の中が変わるわけではない。
でも、住文化を作っていくという、大きなムーブメントの一つなんだろうなと思います。