住まいの話題

大鎮キムラと前研究室がコラボ

大鎮キムラ建設(苫小牧市)は現在、東大大学院工学系研究科の前真之准教授の研究室やM’s構造設計(横浜市)、YKK AP(東京都)の三者との産学連携プロジェクトによるモデルハウスの建設を苫小牧市内で進めている。

同社の設計プランを基に前研究室の学生たちがエネルギー効率などさまざまなシミュレーションを行い、改善点をアドバイス。構造についてはM’s構造設計がノウハウを提供し、YKK APがサッシや付属物に関する助言を行い工務店の設計支援を行う取組み。前准教授はこうした設計手法を全国の工務店に広め、総合的な住宅性能の向上につなげたいと意欲を見せる。

このプロジェクトは、前研究室の学生たちが主導して、快適な住環境と構造をはじめから考えた設計を工務店が実践する試み。今回は、M’s構造設計が運営する「構造塾」を通じて、大鎮キムラ建設のほか、WITHDOM(福岡市)、正栄産業(富山市)の合計3社の工務店が参加している。

多岐にわたる分析

苫小牧市内に木造軸組工法の平屋モデルハウスを建設中で、5月末頃の完成を予定している。延床面積72.87㎡、UA値0.20W/㎡K、許容応力度計算による耐震等級3、制震ダンパーを使用し、太陽光発電パネル10.32kW、蓄電池7.7kWhを設置。北方型住宅ZEROの基準を満たす。

プロジェクトは、工務店が用意したベースプランを学生らが分析。その結果をもとに変更点などアドバイスを行う形で進められた。 検討の基礎になる気候分析には、立地の経緯度、隣地の建築物など周辺環境、地域区分や日射地域区分、気温と湿度などがある。 それをもとに、①主開口方位②屋根勾配③軒の出④袖壁の有無⑤サッシ位置とサイズ⑥カーテンなどのサッシ付属物――の6項目を検討した。 なかでも①は構造に大きな変更を要する検討で、冬季の日射取得量が最大になるのは、敷地の中で建物の主開口面を道路に対して15度傾けた配置になると試算された。

決定プランでは道路に平行の配置を採用したが、大鎮キムラ建設工事部管理リーダーの嶋山恒宣氏は「工務店の発想では出ない指摘。敷地の有効面積や、平行配置でも日射取得は悪くなかったため採用には至らなかったが大いに刺激を受けた」と振り返った。 敷地分析などを行った同研究室博士課程2年の兪潮韻(ユ・チャオユン)氏は「エネルギー消費量だけを考慮するのではなく、住宅設計と組み合わせた総合的なプラン決定が重要だ」と述べた。

サッシはYKK APのAPW430を、南、南東、南西はクリア、北はブルーとガラス色を使い分けて採用している。 室内環境では換気計画について検討。当初プランに対して換気口の位置や吹出しの方向などが変更された。 シミュレーションでは臭いの発生源を台所としたケースと発生源が特定できないケースの2パターンで分析。換気時の空気の流れ方や効率、滞留する箇所はないかなどを調べた。

換気効率検討を行った同研究室修士課程2年の佐武大氏は「配置計画などを見直すことで、空気の入れ替わる速さや臭気が室内へ拡散するのを抑える効果が向上した」と解説した。 大鎮キムラ建設の木村匡紀社長は「例えばひと口にサッシの収まりと言っても、それが住環境や一次エネルギー消費量にどう影響するかなど、ここまで具体的にわかるのかと驚いた」と話した。

健康で快適な未来

効果的な窓の配置で内部は明るい

モデルハウスの完成後には、各居室や玄関などの照度や温度、HEMSを用いた発電量やエネルギー消費量などの実測を行う予定。検討の効果についてデータを集める。

これらの調査結果や、今後も工務店の設計支援などを行うことを踏まえ、前准教授は「熱や光、エネルギー消費量などの環境設計と構造設計を、自ら一手に行える技術者を全国に育成したい」と話し、構造塾と協力し、実務家に環境シミュレーションを学んでもらう「環境塾」という試みを開始したと述べた。
どのように進めていくかはこれからとしながらも、「誰もが健康で快適な住宅に住むことを目指している」と意義を強調した。