住まいの話題

能登に大工を派遣➁

日常の生活環境を再建する

丸三ホクシン建設 首藤一弘社長

■経営者として決断

以前からJBNより大工および現場管理者の派遣に対する呼びかけがあったため、災害地の近隣からの人材が不足した時に支援に行けるかどうかなどを社内でも話していた。 4月の下旬に突然の呼びかけがあり、もっと早くから計画的に呼びかけをしてくれればとも思ったが、被災地で木造の仮設住宅の完成を待ち望んでいる被災者の方の話を以前から聞いていたので、ここで支援をしなければと社内の事情は後回しにして「行きます」と返事をした。 社内の現場管理者と協議をし、工事中のお客様へ事情を説明することとして大工の人選へと進めた。迅速な対応ができたのは、経営者の決断を強く推し進めたことも大きな理由だと思う。

■全員で支援に参加

管理者との協議の翌朝、臨時棟梁会議を行った。現場や家庭の事情を考慮して参加できる大工をピックアップし、第1班として4人の大工に了承をもらい、フェリーの手配と必要な道具・設備等の準備を行った。 4人の大工が出発した後、被災地の状況や現地の様子などの報告もあり、残されたスタッフも「困っている人たちのために活躍したい」との思いも強くなり、第2班の4人も人選が決まり、出発の準備へと進むことができた。 進行中の現場は残った大工が協力して作業をすることで、社内のスタッフ全員が災害支援に参加しているという機運ができてきた。

■現場の状況を一変

災害が起こるたびにたくさんのボランティアや支援金の活動が行われているが、私たち建設業および大工としてできることは被災した方々の住まいそのものを作れることだと思う。現地に行って倒壊した建物を見て、被災者の方々の生活状況を思うと、一刻も早く日常の生活環境を再建してあげたいという気持ちになる。 また、私たち工務店の社員大工がチームとして現場に入ることで、現地で現場管理をしている監督さんから、「遅れていた現場の状況を一変して進めてくれた」と、とても感謝された。工務店の社員大工は自分の仕事だけではなく、現場全体の仕事の流れを考え、チームとして現場を進めることができたからだと思う。

■暖かな住まいを提供

木造の応急仮設住宅は、温かさやデザインの良さなどもあり、大きく評価されているようだ。仮設住宅として壊されてしまうのではなく、復興住宅として使い続けることができることから、経済的にもメリットがあるといわれている。 災害が起きないことが何よりだが、北海道内で大きな災害が発生し、仮設住宅が必要となったときには今回の経験が大きく生かされると思う。それぞれの立場によってできることはさまざまだと思うが、私たちにできることは「暖かい住まいを提供すること」なのだと思っている。

道内は「北方型」の準備を

武部建設 武部豊樹社長

■発生時から応援を

迅速な対応ができたのは、事前に現地の状況を全木協(全国木造建設事業協会)の担当者から聞き情報交換をしていたことと、先行して当協会の事務局長を応援で現地事務局に派遣していたこと、また、地震発生時から現地に応援に行くことを社内で話していたことが大きい。 派遣した大工は、チームを仕切れる経験豊富な棟梁とそれをサポートできるベテラン大工、そして馬力のある若手大工を2人、さらに彼ら4人が効率的にスムーズに作業ができるように手子(補助要員)として4月入社の見習大工を人選してチームを形成した。

■社会的役割を自覚

派遣したことによって得たのは、まずは被災地の役に立つことができたという社会的役割を自覚できたこと。それから、通常の建築現場とは異なる災害現場で、その状況に対応しなければならない中での仕事の進め方を経験できたこと。今後北海道で災害が起きたときに今回の経験はとても役に立つと思う。 今後は、能登半島という地理的状況と広域の北海道における災害の発生状況の違いに対応する北方型の木造応急仮設のさまざまな準備を行政(北海道)と具体的に進めていかなければと考える。