ものづくりする人
山と人と地域を結ぶ「木こりビルダーズ」
取材日:2020/10/10
木こりビルダーズ
深刻化する環境問題によって地域材の活用が見直されている。頻発する自然災害で森林の大切さが再認識されている。一方、現状ではまっすぐな木だけが良質な建材として流通するため、間伐で切り出されても活かされない木が多い。森林の手入れもなかなか進んでいないという。木と人が寄り添って生きるにはどうしたらいいのだろうか。その先にどんな暮らしが広がるのだろうか。そのひとつの答えを木こりの陣内雄(じんのうちたけし)氏は持っている。山と建築を直結するプロジェクト、「木こりビルダーズ」について話を聞いた。
森も地域も活かす
建築用途ではあまり流通しない癖のある丸太を活かして家や納屋を建てる。ツリーテラスや家具を作ってもいい。おもしろいものづくりができて、適正な間伐により山に良い木が残せる。木こりの閑散期の仕事になるし、大工や職人、農家と協働すれば新たな仕事を生む。移住したい人には個性的な住まいや仕事場を提供できる。地元の材料で作ればお金は地元に落ちる。
「木こりビルダーズ」は、そんな活動を実践するプロジェクト名であり、有志によるチーム名だ。2019年から、フリーの木こりとして活躍する陣内氏が立ち上げた。「森を間伐すると、建材として使えないからとチップにしてしまう木がたくさんある。でも曲がっていたり、大きな節があったりしても使い方次第で立派な構造材になる」と陣内氏。山と木を知り尽くしている木こりだからできる建築を目指した。
製材機から広がる
木こりビルダーズの立ち上げにあたって、まず製材機の購入をクラウドファンディングで行った。 移動可能な製材機があれば間伐した木を自分たちでムダなく加工できる。建築現場へ直に持っていくことができ、製材工場に運ぶ手間や費用が省ける。そもそも使いたい8〜10mの丸太は通常の製材工場で扱えるところが少ない。
クラウドファンディングは、インターネット等で自分の活動や夢を発信し、賛同してくれた人々から広く資金を集める仕組みだ。19年3月から5月まで支援金を募集。目標の金額には届かなかったが十分な反響があり、予定通り製材機を購入できた。併せて木こりビルダーズとしてのプロトタイプ建築の設計を進めた。
藁の家をベースに
プロトタイプ建築の元は陣内氏の自宅である。その家は「ストローベイルハウス(藁の家)」にならったもので、ほぼ自然素材で作られている。 ストローベイルハウスは藁を圧縮してブロック状にしたものを積み上げて壁を作り、その上に土や漆喰を塗って仕上げた家のことだ。アメリカ発祥で、70年代に環境問題の高まりから世界中に広まったという。
環境通販雑誌で目にした陣内氏は、そのエコロジカルで力強い工法に共感し、1棟目の実験棟を経て06年に2棟目になる自宅を建てた。構造は木組みで大工が伝統工法で作り、そこに厚さ約50㎝の藁ブロックを自ら施工。左官職人と一緒に土壁を塗って仕上げた。
壁内の藁は断熱効果に優れ、冬を暖かく過ごせる。土壁は調湿や蓄熱、蓄冷するので、夏はひんやりとして涼しい。「気持ちがいいから、家に来る客はみんな長居していく」と陣内氏は笑う。
下川町に第1号を
木こりビルダーズの記念すべき第1号建築は、下川町の「ジョジョニパン工房」だ。19年10月から約半年かけ、今年4月に完成。陣内氏が基本設計を手がけ、プロジェクトを後押ししてくれた桜岡設計事務所(旭川市)が設計、山脇克彦建築構造設計(札幌市)が構造設計を行った。
構造は丈夫なV字柱トラスで5角形のフレームと3角形のフレームを組み合わせている。壁は外壁を土モルタルにして透湿防水フィルムを貼り、50㎝厚の藁で断熱し、内壁に砂漆喰を塗った。天井は屋根鉄板の下に通気層を設け、15㎝厚の籾殻石灰と40㎝厚の藁を充填して砂漆喰で仕上げた。
構造用の丸太は陣内氏が管理している札幌南高の学校林から切り出したもの。丸太の皮むきから籾殻石灰と藁の断熱材充填、壁塗りまでボランティアを募るワークショップ形式にした。プロの指導のもとに行う本格的なワークショップも、木こりビルダーズの活動の一環だ。
つないできたもの
陣内氏は木こりビルダーズの構想に至るまで多岐にわたる経験を積んできた。建築との関わりは東京芸大建築科入学に始まり、卒業後は設計事務所に入社。その後、バブル期の終わりに日本の森を蘇らせる活動をしていた作家、C・W・ニコル氏の森づくりに感銘を受け、林業に従事することを決意した。
92年に故郷の北海道に戻り、下川町の森林組合に勤めて山のことを学んだ。そこで様々な地域活動に参加、その経験をもとに06年に「NPO法人もりねっと北海道」(旭川市)を設立した。15年からフリーの木こりとして活動を開始。「山をどうしたらいいか」などの相談を受けることが多いという。
山と建築と地域を結ぶ木こりビルダーズは、陣内氏がこれまで実践してきたことをすべてつないだものなのだ。