ものづくりする人
森を育てるクラフト

取材日:2023/09/15
チエモク(札幌市) 代表 三島千枝氏
チエモクは道産材で作る木工クラフトの工房。木の温もりあふれる商品がお土産としても人気で、道内のホテルや土産店に並ぶ。「森づくり」にも積極的に取り組み、林業が盛んな上川管内下川町で植樹と寄付を続けてきた。北海道の木の良さを伝えたいという三島千枝代表に話を聞いた。
道産材を自慢する
チエモクの工房は、札幌市西区小別沢にある。札幌の中心部から車で20分ほどだが、森に囲まれ川が流れる自然豊かなエリアだ。ショップも併設されており、訪れた人は緑に癒されながら三島氏のクラフトに触れられる。
製品は食器やアクセサリー、文房具など日常で使われるものが多い。すべて道産材で作られ、一つ一つに材料の木の名前が記されている。「北海道の木を伝えたいという思いはもちろんある」と三島氏。道内は広葉樹にしても針葉樹のマツにしてもいろいろな種類がある。豊かな植生が、本州で林業に従事している人から羨ましがられているそうだ。「もっと自慢してもいいのではと思っている」と言い添える。
森とのつながりも意識し、チエモクの客が製品の材料に興味を持ったら、森にまで関心を広げてほしいと願う。木の価値をもっと上げて、林業に従事している「山側」に還元できるようにしたい。「地元の森を育て、切って、売って、使って、お金が回り、また育ててという好循環にできたらいい」と話した。

ハンノキの活用を考える
150本の植樹を
道産材の主な仕入れ先は下川町。2008年に役場の人から「下川町で木工クラフトをやりませんか」と、移住の誘いがあったことから縁が生まれた。当時、三島氏は家具職人の父の元で木工品を製作していたが、ちょうどその年に独立した。
移住こそしなかったが、道産材の仕入れルートを開拓するにあたり、まず下川町から購入することにした。「想像していた1枚、2枚の単位で売ってくれるものではなく、トラック2回に分けてごっそり買った」と笑う。そのつながりが今も続いている。
また、下川町での植樹を08年からコロナ禍の2年間を除き毎年、さらに森づくりのための寄付も09年から行っている。今年も5月に「チエモク植樹祭」を開催した。参加者は大人から子どもまで総勢25人。下川町役場の森の専門員によるレクチャーを受け、150本のカラマツ苗を植えた。
植樹した木は60年後に大きく育って伐採され、建築資材をはじめ余すところなく使われる。そしてまた植樹する。下川町が営む循環型森林経営の一環だ。このほか、三島氏は森林環境教育の講師として下川町の小学校に通っていた時期もあった。

チエモク植樹祭を開催
ユーザーに応えて
今年は「おもてなしセレクション」で金賞を受賞した。世界に発信したい、日本ならではの魅力にあふれていると認められた商品やサービスを表彰するもので、百貨店などが協賛している。
受賞した商品は赤ちゃんのための器を取り揃えた「もりのともだちシリーズ」。北海道の森から来たともだちが、これからずっと赤ちゃんのそばにいて、赤ちゃんの「食べる」を応援していくという思いが込められている。
もともとは赤ちゃん用の木のスプーンが始まりだった。ユーザーから「器をセットにしてギフトにしたい」と言われ、皿を作って出産祝いのギフトセットにした。その皿ももっと離乳食に使いやすいようにとの声があり、プロダクトデザイナーと協働して改良を重ねた。椀や盆、箸もシリーズに加わり、「お客さんからお題をいただき、それにどう応えていくかをずっと考えてきた」という。
「もりのともだち」の材料に使われる木は、下川町産のハンノキと白樺。三島氏はとくにハンノキの活用に取り組んでいる。

もりのともだちシリーズ
人気のない木を使う
ハンノキはマツなどの人工林に生える侵入木だが、「そこが大事」と三島氏。マツを伐採するときに一緒に伐採され、副産物になる。「誰が植えたものでもない木が木材になるのは、価値をプラスにすること」と強調する。
ただ、家具や住宅に使う木材としては人気がなく、パルプの原料になるチップにすることが多い。それがもったいないと思う。ナラなど人気のある広葉樹は大きく育つのに100年以上かかるが、ハンノキは成長が早く50〜60年で大木になる。環境のことを考えてもハンノキを活用する意義は大きい。
三島氏は、そうして得られた木で作るものは、暮らしの道具として人の役に立つものにしたいという。何より、木の寿命くらい長く使ってもらえるようにと、そのための工夫を日々考えている。