北方型住宅のこと
《第10回》ゼロカーボンヴィレッジ対談:シンプル×動線の工夫=対応力
取材日:2024/02/29
山忠 高島建設×ナカノ設計店
地域工務店と建築家が協働グループを組んで北方型住宅ZEROの住まいづくりを行う空知管内南幌町の「みどり野ゼロカーボンヴィレッジ」。現在11グループの基本プランが公開され、オーナーを募集中だ。工務店と建築家がどのような考えでこのプロジェクトに参加し、どのように協働していったのか、対談形式で内幕を聞くシリーズ。
第10回は山忠 高島建設(札幌市)常務取締役の柴田竜久氏とナカノ設計店(同)代表の中野剛育氏。山忠 高島建設は、自社の大工職人や現場監督にとって、自社企画だけでは培えない経験値になるとの考えのもと、以前から積極的に建築家と協働している。中野氏がナカノ設計店を立ち上げたのは2022年のことだが、山忠 高島建設とは独立前に勤めていた設計事務所でも付き合いがあった。これまでに5~6件ほど協働の経験があり、すでに信頼関係はできていたという二人が大切にしたのは「変化できるプラン」だった。
将来の変化にも対応
中野 きっかけは、こちらから一緒にやりませんかとお誘いしました。
柴田 お話をいただいて、南幌町は一般住宅用地ですでに数件建てていましたので、いい話ですねということですぐに進みました。
中野 南幌町についての情報をあらかじめアドバイスいただけたので、それを参考にしながら設計を進めていきました。
柴田 今回はプラン先行の事業なので設計は大変だなと。お客様の意見や好みが聞けないですからね。
中野 ターゲットを想定しつつ、後のために、間口も広げないといけない。その辺は社内でも話し合いながら作っていきました。想定される主要な家族像は30~40歳代の移住を前提とした子育て世帯なので、将来に渡って住み続けられるような間取りというものを意識しました。
プロセスから言えば、この北海道特有のM型屋根を最初の足掛かりにして、それぞれ子ども部屋と大人の寝室をボックス状に配置しました。そして、部屋と部屋の間の空間をリビングにすると、より外とつながった空間になるんじゃないかなという。そういう流れで形を決めていきました。
柴田 私もこのプランを見た時に、柔軟に変化に対応できるプランでいいなと思いました。シンプルな形なので、例えば、お子さんが増えたとか、部屋を大きくしたいとか、ケースに応じて幅広い対応ができるなと。
中野 このプランの強みは、複数の動線計画です。ここは最近の住宅プランの傾向を見ながら工夫した点です。例えば、玄関を入ってすぐ右手が子供部屋ですが、この部屋には玄関土間から直接入ることもできて、将来的に車いすが必要になってもアクセスしやすいように考えています。ほかには、コロナ禍もあったので玄関近くに手洗いを設置しています。
柴田 実は弊社では、コロナ禍の前から玄関手洗いを子育て世帯向けに勧めていて非常に受けが良かった。初めは小さいお子さんの手洗い習慣などのために始めたものだったんです。
中野 今やスタンダードですよね。
現実的なコスト配分
中野 平屋にしたのは、2階建よりも構成や空間に特徴をつけやすいし、より南幌町の風景に合う建物の形と、建築家らしい建物の形の両立ができるんじゃないかと思ったからです。
柴田 それと、南幌町に来るお客様は平屋が好きな方が多いんですよ。土地が広いこともあるのか、平屋希望で相談に来る方が多い。
中野 北方型住宅ZEROは省エネ基準よりもずっと先に行っています。それが、建材価格が高騰している昨今にあっては建設コストの高止まりの原因になってしまうことを懸念しています。プロジェクトの概要的には太陽光発電・蓄電池を攻めてほしかっただろうなとは思うんですが、コスト配分を現実的に考えて、今回のプランでは太陽光発電の容量をあまり大きくせず、外皮性能の強化に重点を置きました。
柴田 少し前までは賃貸の家賃と同じくらいの返済額でローンを組んで家が買えていましたが、最近では難しい。そのなかでこれだけ高性能にして太陽光発電設備もつけるとなると、南幌町だからできるという感じですよね。
中野 どうしても太陽光設備は付けたら付けただけコストに跳ね返ってきますから。参加されている皆さんそれぞれ、自分のSNSやホームページで情報発信されていますが、プロジェクト全体について道庁さんもSNSなどで発信してくれたらいいなと。そこに参加者のSNSを紐づけるとか。
柴田 弊社が南幌町で施工した物件の完成見学会の話ですが、チラシや宣伝だけではなく実物を通りがかりに見て見学に来た人もいたんです。でも今回のプロジェクトでは現地に見るものがない。だったら、区画に大きな看板をどんと立てて、こういうプランをここに建てます!という感じで宣伝すると違うと思うんです。見かけた人が、おやっと思って連絡をくれますよ(笑)。