ものづくりする人

土地のストーリーを建築にする

米花建築製作所は、ともに一級建築士の米花智紀氏と米花真弓氏が夫婦で活動している建築設計事務所。道と南幌町などが推進するみどり野ゼロカーボンヴィレッジにも参加し、その土地と南幌町の自然に寄り添う住宅を提案している。建築が建つ土地のストーリーを大切にしているという米花智紀代表に、住宅とこれからのまちづくりについて話を聞いた。

配置が形を決める

米花氏がみどり野ゼロカーボンヴィレッジでタッグを組んだ工務店は、丸作吉田建産(札幌市)。木を多用した家づくりに共通点があった。高性能住宅の工法や技術は学ぶところが多かったという。 プランは平屋と2階建の二つを提案した。同じコンセプトで、どちらを選んでもいいし、どの区画でも対応できるように考えた。両方とも四角形の二つの角を切り落として六角形にしたユニークな形状をしている。「これは必然的に導かれたもの」と米花氏は話す。 この分譲地の区画は、前面道路に対して東西南北の方角が45度振れていた。建物は道路と平行に建てた方が街並みが整うので道路と正対させつつ、壁面太陽光パネルの日射取得量を考慮し、方位に合わせて東西面をカットした。 カットによってできたスペースを生かそうと道路側は駐車場とエントランスを設け、反対側はプライベートな庭とした。こうして配置計画と外構計画ができあがった。

外観デザインは、壁面太陽光パネルを「一つの外壁や素材として捉えられないか」に注力したと米花氏。そこで、屋根の側面部分に特殊な接着剤で貼れる太陽光パネルを北面以外に設置することにした。
外観の上部が太陽光パネルで帯状になったため、下部も窓と道産木材の壁、壁面緑化がボーダー状になるようにデザインを統一した。
土地から導かれたこの家を、米花氏は「南幌ネイチャーベース」と名付けた。南幌町の自然の恵みをキャッチして使おうと呼びかけている。

土地を読み解く家

自身の建築について、米花氏は「配置がすべて」と語る。どこにどう建てるのがいいのか、太陽の回り方や方位から建物の配置が浮き上がり、形状も決まってくる。その背景に土地の歴史があればなおいい。土地から建物まで一貫したストーリーが生まれる。 例えば、2016年に建築した「掘立柱の家」がある。施主の5代前に栗沢町(現在の岩見沢市)に入植してきた農家の土地だった。周りにはとても美しい田園風景が広がっていた。 「昔は山林で雪も多いし、野生動物も多かっただろうし。そんな中で苦労して開墾し、田園風景を作り上げた。その痕跡を残したいと思った」と米花氏。 原生林に見立てた松材の丸太をアウトフレームに用い、居住空間を支えるプランを考えた。外壁は木のルーバーで覆っており、家は林の中で浮いているように見える。山脇克彦建築構造設計(札幌市)と組み、米花氏の代表作の一つになった。

 

掘立柱の家

変形地にチャレンジ

変形地や旗竿地など難しいとされる土地の建築も得意とする。「建築家に頼むなら、ハウスメーカーに断られそうな土地にしたほうがいい」と笑う。土地を安く取得でき、その分を建物にかけられるからだ。建築家としてチャレンジのしがいもある。 「旗竿敷地のプラットフォーム」と名付けた家を19年に札幌市内に建築した。周りが住宅に囲まれているので日影をシミュレーションするなど、配置を決めるのに徹底的に調べた。 その結果、道路に接している細い出入口部分の延長線上に建物を配置した。そうすると、旗竿の道がそのまま内部に入ってくるイメージができた。「道路上で遊ぶような」と米花氏は話し、ここにもストーリーのある建築が生まれた。

助け合えるまちを

米花氏は(公社)日本建築家協会(JIA)北海道支部の活動の一環で、南幌町や厚真町のまちづくりに現在進行形で携わっている。 ただ土地を分譲するだけでなく、「集団で住む意味があるまちづくりをしたい」と話す。たとえば、災害に備えて備蓄倉庫を共有したり、住人に電気を供給する充電基地があったりしてもいい。 自然災害に対して北海道も安全とはいえないから、「普段から助け合う意識のあるまちづくりができれば」と意欲をみせる。