元気な工務店
オーダーリノベーションという選択を
取材日:2022/12/30
建築舎(札幌市)
建築舎(札幌市)は、中古住宅をまるで注文住宅のように改築する「オーダーリノベーション住宅」を提供している。見た目や設備を新しく変えるだけではなく、断熱や気密、耐震などにこだわり、新築以上の性能に施工。昨今、国が注力する良質な住宅ストックの形成を道内で先駆けて行ってきた。「施主の想定以上の家にしたい」という杉山聡社長に話を聞いた。
8年間で100棟
建築舎が2014年から始めたオーダーリノベーション住宅は今年、トータルで100棟を超えた。ほとんど広告をせず、口コミと完成見学会で顧客の心をつかんだ結果だった。
杉山社長は当初のきっかけをこう語る。元々、同社はリフォーム工事をメインにしてきたが、事業拡張のため不動産業を加えた。そこで顧客から「もう歳だから家を売りたい」と相談を受けた。
それまで仲介や売買だけではなかなか軌道に乗らなかったこともあり、杉山社長はその家を買い取って、リノベーションすることを前提に売りに出したところ、ほどなく買主が現れたという。その時の建築の進め方はほぼ今と同じ。最初に売り物件をリノベーションする標準プランと価格を提示し、それを叩き台にして顧客の要望に合わせて自由に変えていくスタイルだ。
買主は新築より安く、注文住宅のように自分の好みに建てられ、とても喜んだ。一方、売主からは、愛着のある家を解体せずに残せたと感謝された。双方のニーズに合致し、その後は次々と順調に仕事が決まっていった。
大工の技術と経験
オーダーリノベーション住宅で扱うのは、旧耐震基準の40年以上経った中古がほとんどだ。基礎と主要な構造材を残してスケルトンにする。アンカーボルトを打ち直し、基礎のコンクリートに炭素繊維シートを貼るなど補強を行い、再生可能な木材はできるだけ再利用する。
スケルトンのため希望の間取りへ自由に変更できる。建具や内装、キッチンやバスルームなどの設備機器も好きなものを選べる。どんな風に変えたらいいか分からない顧客も多いので、プロの目線から標準プランを作成し、そこから話を進めるとスムーズにいくという。
耐震診断も実施。杉山社長によると、18年に起きた北海道胆振東部地震の際にOB客の家を全棟検査したが、家が傾くなどの大きな被害はなかったそうだ。
また、家の性能を決めるのは「気密」といい、C値0.5以下の高気密を標準としている。計算値ではなく、完工時に必ず気密測定をしてきた実績値だ。
杉山社長は自身が大工で、現場の大工はいずれも経験豊富な職人たち。「古い木材を使って気密性能を高めるのは、技術がしっかりしていないとできない」と自負する。
その証として、全国で初めてリノベーション住宅でエコブレスを導入した。から屋(札幌市)が特許を取得している第2種換気のダクトレス空調システムで、1階床下の熱源だけで自然対流により家全体を暖める。
システムがより効果的に働くには、気密性が極めて重要だ。同社はエコブレスをリノベーションではオプション対応、新築では全棟標準で採用している。
もったいないが原点
杉山社長の家づくりの原点には、「もったいない」があるという。古い木材は、かんな掛けをすれば新品のような木肌になる。木は、植えれば40年で育ち、再利用もできる循環型の資源。それが中古物件の解体で廃棄されたり、新築の現場で余りが処分されたりするのはもったいない。
また、これから日本の人口が減少する中で、今ある建物を利用しないのはもったいない。スクラップアンドビルドの時代は過ぎたと、もう何年も前から気づいていた。リノベーションは、新築と違ってやってみないと分からないことが多く、その場で臨機応変な対応が求められる。柱の反りを調整するなど、現場で加工する大工の技術が欠かせない。
そのうえで杉山社長は顧客のオーダーに応え、それ以上の提案をする。「人に感動を与えるのは、想定以上のことをした時。それができたら一番嬉しい」とモチベーションを語った。
地域を活性化する
今後は地域の活性化に取り組みたいと話す。先日、高齢者に介護サービスを提供する小規模多機能型施設を受注した。 施主は最初、「建物は20年持てばいい、高齢者が少なくなるから」と言っていたが、「それなら、20年後は地域のコミュニティ施設として使ってもらったらいい」と杉山社長は提案。長く快適に使えるようにと性能向上も受け入れられた。
また、作業場の構想もある。高齢のため現場に出られなくなった大工たちが、技術を生かして木材の加工をする場を設けたい。若い大工を育てることも必要だろう。 「自分がいる世界をどうしたいか考えていかなければ」と先を見据えている。