住まいの話題

十勝川で実大木造住宅の耐水害実験

(国研)建築研究所、(公財)日本住宅・木材技術センター、一条工務店(東京都)の三者は共同で6月27日、「実大木造住宅の耐水害実験」を行った。十勝川千代田実験水路(中川郡幕別町相川)に一条工務店の「耐水害住宅スタンダードタイプ」仕様の実際の木造住宅を建設し、水流の中での住宅の抵抗性能や各部に作用する応力など、力学的なデータ収集を中心に検証が行われた。

住宅に水流の荷重

耐水害実験は北海道開発局と(国研)寒地土木研究所の堤防決壊実験に合わせて行われ、帯広市や幕別町など周辺自治体や大学関係者、建材メーカーなどから約200人が見学に訪れた。決壊させる堤防から70mほど下流の水路内に木造住宅を実際に建て、堤防が決壊した際の水流を用いて住宅の流体力への抵抗性能や各部に作用する応力を検証した。実大での同様の実験は建築研究所では初の試み。

実験開始に先立って建築研究所材料研究グループの槌本敬大グループ長が概要を説明。実験の目的は、水流が当たったときに住宅にどういう荷重が加わるかの力学的なデータを集めることだと述べ、「住宅に対して水流が作用したときにどうなるかという研究はまだ始まったばかり。理論通りに荷重が加わるのかどうか、実大で確認したい」と話した。

 

通水前の様子

浸水させない仕様

使用した住宅は一条工務店が販売する「耐水害住宅スタンダードタイプ」仕様で、同社帯広工事課が施工した。 木造枠組壁工法2階建、延床面積107.48㎡。基礎はベタ基礎。床下換気口は内側にフロート式の弁が付いており、水が入ってくると浮き上がる弁が換気口にフタをして浸水を防ぐ。 外壁は専用の透湿防水シートで防水処理され、サッシは5㎜厚の強化ガラスを使用したトリプルガラス樹脂サッシ。玄関ドアとサッシのいずれも専用の中空パッキンによって枠の隙間からの浸水を防いでいる。

内部はいわゆるスケルトンの状態で、設備関係や内装、家具などは入っていない。 スタンダードタイプの大きな特徴は「床下注水ダクト」。建物が浮力で浮き上がる前に床下に水を引き込み、水の重量で浮力に対抗する仕組み。 注水口の高さはGLから100㎝ほどで、アルファベットのJを逆さにしたような形状と設置する高さで普段の雨や洪水の初期段階では水が入り込まないようになっており、実験住宅では北面と東面に一つずつ、合計2本設けられた。

30トンの水に耐える

9時に毎秒4トンで通水を開始。水は9時51分に堤防を乗り越え実験住宅に到達した。10時40分ごろには水がGLから約50㎝に達し、完全に床下換気口を飲み込んで玄関ドアの下に迫った。 ここから数時間かけ段階的に通水流量を増やし、最終的に毎秒30トンの時点で堤防は決壊。破堤までに約7時間を要した。 住宅は最大でGLから140㎝まで水没。玄関ドアとサッシは3分の2が、注水管は完全に濁流に覆われた。

約30分間毎秒30トンの流れに晒された住宅は、現場の速報で漏水なしが発表され実験を終了。得られたデータの詳細な解析は、今後建築研究所が行う。また実験住宅についても、流水が構造内部に与えた影響などを観察しながら解体される。

一条工務店は2015年の鬼怒川の決壊をきっかけに耐水害住宅に取り組んだ。(一社)日本建築学会主催「2023年日本建築学会賞(技術)」など数々の賞を受賞している。同社特建設計部の平野茂部長は「床下数センチの浸水でも何百万円と改修費用がかかってしまう。さらに、被災後すぐには改修工事が進まない現状も目の当たりにし、浸水そのものを防ぐ住宅を開発した」と話し、今後は「既存の建物の耐水害化にも取り組みたい。今回の実験結果をさらなる開発に生かしていきたい」と展望した。