ものづくりする人

「モノ」づくりに大切な「コト」を探究

上川管内東川町で旭川家具を製造する大雪木工(長谷川将慶社長)は、2015年から家具デザイナーの小泉誠氏とともに「大雪の大切プロジェクト」を開始し、そこから生まれたユニークなプロダクトを毎年のように発表している。その一つの「入る箱」シリーズは、(公社)日本インテリアデザイナー協会が主催するJID AWARD2020で入賞を果たした。プロジェクトによって何に取り組み、どう変わったのか、長谷川氏に話を聞いた。

 

家具が空間になる可能性を引き出す

家具はタンスやキャビネットなどの「箱もの」と椅子やテーブル、ソファなどの「脚もの」の2種類に大別されるが、大雪木工は箱ものが多く、その中でもカップボードや書棚などの「棚もの」を得意としてきた。しかし、重厚な箱もの家具の需要は時代とともに減っていく。

もともと同社は「質より量」で成長してきた家具メーカーで、発注された家具を真摯に作ってきた。30人近くの職人も高齢化が進むなかで、2000年に二代目社長に就任した長谷川氏は、木製家具のメーカーとしてモノをつくり続けるためにはどうしたらいいかを考えた。

模索する中で15年に「大雪の大切プロジェクト」をスタート。これからも「モノ」をつくり続けていくために、大切な「コト」は何かをみんなで考えていこうという取組みで、長谷川氏は「社員のやりがいや職場の環境をもっと良くしたいという思いがあった」と当時を振り返る。

ちょうど同年6月に旭川家具工業協同組合が旭川家具産地展を旭川デザインウィーク(ADW)と改め、新しいデザインの祭典として初開催した。

長谷川氏はこの機をとらえ、出展ブースに「大雪の大切プロジェクトはじめます」と大きく掲げた。「外部というより、社内に向けた宣言のようなものだった」という。

 

家具が空間になる「入る箱」シリーズの「働き箱」

変わっていく会社

同プロジェクトには家具デザイナーの小泉誠氏が深く関わっている。日用品から建築までデザインする日本の第一人者で、各地でモノづくりの協働を行っていた。長谷川氏も親交を重ねるなかで一緒にプロジェクトを手がけることになった。

小泉氏のつながりでグラフィックデザイナーやコーディネーター、映像クリエーターなど社外の人々もメンバーに加わった。2〜3ヵ月に一度ミーティングを開き、意見を交わす。そこで出されたイメージを共有し、毎年6月に開催されるADWと東京で11月(今年は10月18〜20日)に開催されるIFFTインテリアライフスタイルリビングの2つの展示会で発表することを目標にした。

プロジェクトの宣言から一年が経過した16年のADWでは、会社の倉庫を特別ギャラリーにして一般公開した。それまで展示会はほとんど営業任せだったが全社員が力を合わせた。斬新な展示スタイルは注目を集め、一般客だけでなく旭川家具の同業者たちも見学に訪れた。「会社はもっとおもしろくなると手応えを感じた」と長谷川氏は述懐する。

 

強みに気づくこと

17年のADWは道産の「ハンの木」を使用した家具シリーズを発表した。家具材としてあまり活用されてこなかった樹種だが、軽く、丈夫でいつまでも使い続けられることから以前から取り扱っていた。ハンの木に価値があると気づかされたのもプロジェクトがあったからだった。

18年は化粧張りパネルの実験的な試みを行った。突板貼り工場を自社で保有している強みを生かし、大漁旗や写真、古布、子供の絵などさまざまな素材を板に貼ってパネル化し、反響を呼んだ。

19年は同社の顔になる「入る箱」シリーズを展開。箱の中にベンチと棚を設けたパーソナルデスク「机箱」や、三層パネルを組み合わせてワークスペースや小上がりを自在につくる「働き箱」など、家具が空間になるという新しい可能性を引き出したものだ。

「箱ものが得意なメーカーだからこそ生み出せた」と長谷川氏。実用新案と意匠登録を取得済みで、JID AWARD2020ではインテリアプロダクト部門賞を受賞した。

 

道内産の「ハンの木の家具」シリーズ

笑顔でモノづくり

大雪の大切プロジェクトを始めて今年で6年。この間、若い世代から同社で働きたいという問い合わせが増えた。プロジェクトに惹かれて入社した社員が増え、社内の意識も変化した。

最初は「小泉誠がデザインした家具を作っているだけ」と思っていた同業者たちも「大雪木工のプロジェクト」と認識してくれるようになった。
今後の展開については、「これからもみんなが笑顔で展示会の準備を続けられればいい」と長谷川氏は笑う。