ものづくりする人

地域工務店とタッグを組む

HOUSE&HOUSE一級建築士事務所代表の須貝日出海氏は、全道をフィールドに地方の工務店と協働しながら家づくりを行っている。その場所の風景を設計に取り込み、地元の人や材料を活用した建築は、自然とその地域に固有なものになるという。「地方の時代」と言われる今、北海道らしい住まいへ新しい風を吹き込む須貝氏に話を聞いた。

 

 

北海道の地域性を

十勝平野の広大な畑の真ん中に、印象的な農家住宅がある。2年ほど前に須貝氏が足寄町の木村建設と組んで設計し、十勝産のカラマツ無垢材を用いて現しで仕上げた。延床面積約160㎡の平家で、家族4人がのびのびと暮らしている。
木村建設の木村祥悟社長は宮大工の技量を持ち、木組みの家づくりを得意とする。こうした地域工務店とのコラボレーションは、須貝氏のスタイルの一つだ。
東京の設計事務所勤務を経て、2018年にUターンした時、「北海道は広いから地域性が豊かでおもしろい」と感じた。いろいろな地域で、人材も含めてそこにあるものを使って建築したら、自然にそこにしかない固有なものができる。そんな家づくりがしたいと思った。
須貝氏は北海道地図に、ホームページやSNS、人づてで興味を持った工務店、製材所、木工所、建材店、職人などの名前を書き込んでいる。その中から機会あるごとに人を訪ね、地域で一緒に仕事する足がかりを築いてきた。
初めての工務店と組む場合は、「その会社が建てる家の標準仕様をベースに設計する」という。培ってきた技術や経験を生かすことで、「共に作り上げる」という意識が生まれるからだ。
お互いに得意分野を尊重しながら2棟、3棟と建てていくと、設計者と工務店という距離感が消え、共通のゴールが見えてくる。そうなれば目指す建築がスムーズに完成する。

 

 

十勝産カラマツを使った木組みの家

風景は固有の財産

須貝氏は、風景を暮らしに取り込むように設計する。「東京の狭小住宅と違って、北海道でせっかく建てるのだから風景を使わない手はない」と確信している。 美しい自然の風景は、それ自体が財産だ。暖かく快適な室内から四季の移ろいを眺めることができれば、暮らしは豊かに、穏やかになる。
昨年、岩見沢市の武部建設と協働して設計した栗山町のレストランも大開口を設け、食事をしながら牧歌的な農村風景を一望できるように仕立てた。フレームのような窓を作り、風景を絵のように楽しめるカウンターのコーナーもある。
「レストランは地域性のある食べ物を提供するので、建物も地域性を出すと相乗効果が生まれる」と須貝氏。使用した木材も、その地域で解体した古民家のものを柱や梁、テーブルなどに再利用した。レストランは料理も空間も評判を呼び、遠くからでも人が訪れている。

 

風景もごちそうになるレストラン

作り手をつなげる

地域に寄り添った家づくりでは、地域材の活用も大切な要素だ。「地元の食材で作った料理が美味しくて値段も安いように、地元の木材を使ったほうが安価で良い家ができる」と話し、各地の製材所を自分の足で回っている。
設計する際には大工を伴い、相談しながら材料を選んでいく。「地域材を使った家がもっと良く見えるように工夫する」ことを意識しているという。
構造材の組み方が同じでも面材の木の種類や貼り方によって見た目が違ってくる。例えばカラマツはフシが多いので、構造も面材もすべてカラマツで仕上げるとログハウスのような無骨な家になりやすい。そこにヨシベニヤやタモなど違う木を組み込むと、空間に柔らかさが生まれる。
今はインスタグラムなどのSNSにより、地方に住んでいても東京と同じ情報が得られる時代だ。材料の一つをとっても顧客はかなり勉強している。施主の要望に「分からない」「できない」と言っていては仕事が成り立たない。応えるためには「外に対して開くことが大事」と須貝氏は捉え、各地の「作り手」と出会い、つなげていくことにも取り組んでいる。
地方の工務店と腕のある左官職人を引き合わせたり、家具職人とコラボレーションしたり、「マッチングサービスみたいな動きができたらおもしろい」と展望する。「都市への集中」から「地方への分散」に時代が変化する今、地域のネットワークは北海道の家づくりに新しい方向を示すだろう。