ものづくりする人
出自の分かる広葉樹の流通へ
取材日:2023/04/30
下川たてじま林産(上川管内下川町)
下川たてじま林産は、ほとんどが粉砕されてパルプになっていた下川町産広葉樹の利活用を見出し、建築材から家具、クラフトまで地元の木を使って地元で加工する商品作りに取り組んでいる。「出自の分かる木製品」で地域材の川上と川下をつなぎ、新たなマーケットを拡げる麻生翼社長に話を聞いた。
地域商社の役割を
「下川町にある木材専門の地域商社」。麻生氏は自身の会社をそう定義している。取り扱っている樹種は、下川町産を中心に広葉樹でナラやタモ、カバ、セン、イタヤカエデ、ニレ、クルミ、ハン、シラカバなど。このほかトドマツやカラマツの針葉樹も扱う。どの木も北海道内もしくは下川町産の「顔の見える木材」だ。
原木を調達したら、製材、乾燥、加工、製作、流通まで一貫してコーディネートする。原板だけの販売はせず、建築向けには地元の工場や職人と連携して構造材や内装材の加工、家具、什器などの製作を手掛ける。
また、木材を使った新しい商品開発のサポートも行う。麻生氏の領域は、森からどこまでも広がっていく。
建築家を森へ案内
「木は、食に比べると消費者と産地がつながりにくい。そのつながりをコーディネートしている」と麻生氏。
例えば、こんな仕事があった。マンションのリノベーションで、出所が分かる木を内装に使いたいという施主の希望に応えるため、建築家から広葉樹の入手について依頼を受けた。麻生氏はその建築家を下川町の森や工場に案内し、原板を実際に見て選んでもらった。木の特性により適材適所で使えるようにアドバイスも行った。実際に7種類もの広葉樹をカウンターやテーブルに採用。まるで豊かな森にいるような住まいに仕上がった。
また、自社の社有林にある木を社屋に利用したいという施主に対する相談も。請負った会社の設計士はどの木が使えるのか、どうやって建築材にするのか、必要な量はどれくらいか分からない。そこで麻生氏の出番だ。 森に赴き、原木を選定。協力会社を手配し、建築に必要な木材の調達から加工までの役割を担った。
地域の自給自足に
もともとは下川町産の広葉樹を木材として流通させたいという思いから始めた取組みだったという。 麻生氏は、下川町を拠点に活動するNPO法人「森の生活」の代表理事を2013年から今も務めている。子どもたちの森林環境教育や観光客向けの森林ガイドなどを行ってきたが、ある時、広葉樹が利活用されずにほとんどパルプになっている現状を知り、もったいないと思った。
当時、下川町には広葉樹を専門に挽く製材工場はなく、まして地元の広葉樹を取り扱う会社もなかった。それなら自分でやってみようと、木材の低温乾燥機を導入。40度の低温で約1ヵ月乾燥させるもので、中〜高温の乾燥機に比べると非効率だが、乾燥温度が一定なので樹種や規格が異なる木材でも一度に乾燥できるメリットがあった。
離農した酪農家の倉庫を借り受けて工場とし、2015年から生産を開始。乾燥した木材は、「しもかわ広葉樹」と名付けた。産地の明らかな広葉樹はめずらしく、家具・クラフト工房や設計事務所などから引き合いがあった。その縁で下川町に移住した木工作家もいるそうだ。
最初は原板を販売していたが加工品の依頼も受けるようになり、下川町の森林組合から生まれた下川フォレストファミリーをはじめ、町内の事業者と連携。徐々に加工品の製作・販売にシフトした。麻生氏は下川町の森の木を地元で加工することで、川上から川下まで一つにつなげた。下川町に新しいマーケットの土壌ができたのだ。
そのうえで新しい切り口で木材を扱いたいと、昨年の夏に起業に踏み切った。「事業として育てていくために、株式会社としてリスタートすべきと感じた」と麻生氏は語る。考えているのは、下川町の地域の持続性を高めること。そのためには資源の自給自足が必要で、森はそれを与えてくれる。「地域の人たちが森に触れ、森を育て、自立することが大切と思う」と麻生氏。森と人とまちをつなぎ、循環の輪をつくっていく。