ものづくりする人

1本の木が建築の形を決める

JAPAN WOOD DESIGN AWARD 2020(農林水産省林野庁補助事業)を受賞した「森の素形」は、一級建築士事務所GLA(札幌市)代表の高野現太氏が手掛けた自邸兼モデルハウス。北海道建築士事務所協会の18年度「きらりと光る北の建築賞」とJIA日本建築家協会北海道支部の19年度「建築大賞 審査委員賞」も受賞した稀有な建築だ。環境と融合した住まいの在り方を表現した家、その魅力を訪ねた。

家の中も森のよう

山のふもと、雑木林を切り開いた自然豊かな地に「森の素形」はある。住宅というより、森の一部のような佇まいだ。外壁は幅45㎜の細い道南杉板で仕上げている。「風雪に耐え忍び、力強く建つ姿を表した」と高野氏。無塗装のシルバーグレイの色合いは周囲にしっくりと馴染み、歳月を経てますます森と同化していくようだ。

家の外観構成として森と連続するように大木のような柱を並べた。その柱と家の間に中庭のような「間」がある。中間領域を設けることで家と外がグラデーショナルにつながり、居心地の良さが育まれる。

家の中にも大きな収納の木の柱が立ち、吹き抜けを2階まで伸びている。「空間も森のように」と高野氏。開口部は大きく、場所によって多様に開かれ、どこにいても外の風景を意識できる。

1階は玄関、リビング、ダイニング、書斎がそれぞれ独立している。らせん階段を上ると2階は3つの部屋と茶室、そして浴室。延床面積約124㎡に収まるそれらのスペースは決して広くない。「広いだけでは豊かでない」と高野氏は語る。

むしろ小さな空間をちりばめたことで、気持ちや1日の移ろいに合わせて居場所を選べる贅沢ができる。廊下を歩くだけでも外の見え方に変化があり、陽の差込みや空の色の加減など自然が心に寄り添ってくる。

 

大木のような柱が森に呼応する

素材は命を入れる

「森の素形」は自然素材がメインだが、異素材も多く取り入れている。「モデルハウスを兼ねているので、素材の良し悪しもここで見てほしい」と話す。高野氏にとって素材は、「空間に命を吹き込む最後のもの」。だから、素材の選定も使い方も独自のこだわりがある。

たとえばリビングの床はクルミ材を使っている。単調にならないように幅を変え、目地が美しく揃うようにカットした。既製のフローリングよりナチュラルな表情だ。窓に相対する壁一面は亜鉛メッキ鋼板で、外の風景が映り込み、季節や時間ごとの変化を楽しめる。

ダイニングの床はコンクリートを使用。無塗装で汚れても気にせず、「土足で上がってもいいようにラフに仕上げた」という。天井は体育館や倉庫でよく見られる木毛セメント板で、住宅に使うのはめずらしい。柱や壁はカラマツ合板だ。「安価な素材でも使い方次第でかっこよくなる」。

吹き抜けと2階の天井は鈍く反射する銀色の盤面。ここにも刻々と変化する外界が幻想的に映し出される。

自然を感じられるキッチン・ダイニング

感動を生む建築を

高野氏が建築家を志したきっかけは、高校の美術の教師の言葉だった。油彩や版画、書道、陶芸など何でもやってきた高野氏に「建築は総合芸術」と、その教師は教えてくれた。

ガウディの教会建築を入り口に、ル・コルビュジエを筆頭とする「本物の建築」を知って魅力を感じた。「ロンシャンの教会のような感動を生む建築を作りたいと思った」と述懐する。

北大工学部建築都市学科に入学し、大学院に進んだ。研究分野はデザインではなく構造設計を選んだ。建築の成り立ちを、学生のうちにしっかり勉強したかったからだ。その代わり海外や国内の著名な建築物を見て回り、感性を磨いた。

卒業後は本来目指していた意匠を追求するため、建築設計ユニットMooS(札幌市)に所属。12年に渡ってこだわりの強い住宅に数多くたずさわり、実績を積んできた。

2018年に独立し、一級建築士事務所GLAを開設。個人の建築家としてゼロからのスタートだったため、顔になる建築物がほしいと作ったのが「森の素形」だった。数々の建築賞を受賞し、「GLAの顔」であり代表作になった。

 

緑を映す銀盤の天井が美しく心地よい

工務店とコラボも

建築家としては、「テイストを広く持ち、柔軟なスタンスでいたい」と話す。木質感あふれる素朴な家も、モダンでラグジュアリーな家も、それぞれ設計のおもしろさがある。新しいことにチャレンジすることが一番の楽しみだ。

ただ、「北海道の土壌に添うもの」という本質は変えたくない。建築は環境によって形作られる。そこに生えていた1本の木が建築の形を決めることだってある。「環境に則して、形と光と素材を適切に取り入れる」ことをこれからも模索していく。

今後は、「同じベクトルを持ち、建築の可能性を見出すことのできる工務店と組んで一緒に作り上げていきたい」と話す。工務店とのコラボレーションにより、デザインと技術が融合し、空間の質を上げた住宅を届けることができる。それが「微力ながら北海道の住宅建築業界のボトムアップにつながれば」と思っている。