元気な工務店

「全棟カラマツ宣言」森への意識を社会的に高める

「全棟カラマツ宣言」のもと、道産木材にこだわった家づくりに力を入れる三五工務店(札幌市)。単に道産材を使うことだけではなく、森と人の暮らしをつなぐことを考え、新たなチャレンジに取り組んでいる。その根っこには北海道の工務店として地域を豊かにし、北海道に貢献したいという思いがある。同社の代表取締役社長、田中裕基氏に話を聞いた。

地元の材料を使う

三五工務店は2014年に「全棟カラマツ宣言」を掲げた。同社が建てる家に道産材を活用していくことを表明したもので、今では構造材は道産のカラマツ材、フローリングなどの無垢板もすべて道産材で仕上げている。

田中氏は2010年に三五工務店に入社する前、フードコンサルティング会社に勤めていた。そこでは実際に畑に足を運び、食材がどうやって生産され、どう調理してお客様の口に入っていくのか考えることが仕事だった。「北海道で建てる家になぜ北海道の木を使わないのか疑問に思った」

建築業界に入ると、「木造建築のいちばん重要な素材である木材に対するこだわりが感じられなかった」と振り返る。建築用の木材はほとんどが外国産で、それがあたり前のように思われていたのだ。「地元のものを地元で消費することが本来あるべき姿なのでは」

地域の工務店にできることは、地元の材料を使って地元の職人が建築すること。「やるなら中途半端ではなく全棟で」と思った田中氏は、課題を一つ一つクリアしていくことに注力した。

道産材は外材に比べ高額だが、全棟で使うこと、そして製材所と直接取引することで安く抑えるルートを開拓した。道産材の知名度を上げるためにモデルハウスを建て、アピールした。反響はまず道外からだった。北海道に移住を希望する人たちから、「せっかく北海道で暮らすのだから道産材で建てたい」といった問い合わせや依頼が増えたという。

最大の変化は社員のモチベーションが変わったことだった。それまでの「いい家を作る」ことに加え、「北海道にこだわって地元を愛する」という意識が芽生え、そこから「私たちが愛する地元を良くしていきたい」との共通の思いが育まれている。

 

道産材で建てる三五工務店の家

 

森のボランティア

道産材の家づくりを進めるなか、田中氏は「森を再生し、育てていくことまでやらなければ」と考えている。

昨年、自ら森の清掃のボランティア活動を始めた。フリーランスの木こりたちと一緒に彼らが作った林道を掃除し、枝を払う。森に身を置き、木こりと話をすると、「自分は森や木のことを何も知らない」と実感したそうだ。木がどうやって運ばれ、製材されるのか、林業の実態がどうなっているのかなどだ。

ただ、木こりたちも建築業界のことを知らない。「両者の距離が縮まればいいと思う。そしてみんなで森への意識を社会的に高めていければいい」
間伐を行い、手入れをすることで木はしっかりと成長する。田中氏は「そうした良質な木材を家や家具に使えば100年以上も生かすことができる」と話す。

だから、森から切り出した木を施主に渡すところまで一つのストーリーを描けるようにしていくことが「自分の役割」と思っている。役割を果たすために次の目標に掲げているのは「山を買うこと」だ。

 

森のボランティア活動

非住宅も木質化へ

森と暮らしをつなげることをコンセプトにしている同社は、薪ストーブを設置した施主に薪の配送サービスを4月から始める。ほかにもエネルギーの提案や契約、メンテナンスまでを行い、リノベーションやリフォームはOB客や紹介の顧客を中心にきめ細かく対応する。

「三五工務店に出会って北海道の暮らしがほんとうに楽しい」と言ってもらえるように、施主とのつながりを大切にしたいと田中氏は語る。

最近は非住宅分野にも進出し、道産材を使った建築を広めている。
昨年は、「働くことを豊かに」をテーマにした賃貸物件ブランド「W&(ダブリュ・アンド)」を立ち上げた。収益不動産の運用・開発を手掛けるR&Iカンパニーリミテッド(札幌市)と提携し、内装も外装も道産材を使い、無機質なビルの一室というオフィス環境を大きく変えるのが狙い。クリニックやホテルなどを木質化する動きも活発になってきているという。

田中氏は、これから企業が生き残る戦略は「二者択一」になると考えている。マスを狙うビッグビジネスを展開するか、地域密着で理念経営にこだわるか。同社はあくまで後者に特化する。経営理念は「幸せをどうやって作り出していくか」。

幸せには、健康や時間、人間関係、お金など様々な価値観があるが、「大事なのはそれらのバランス」。田中氏は、そのバランスを自然とともに歩んでいくことにチャレンジし続けている。