元気な工務店

建築と不動産をワンストップで

施工範囲を本社から30㎞圏内に限定し、年間施工棟数も12棟までと決めて徹底的に顧客と向き合うサンケイ建匠(札幌市)。この春、不動産会社サンケイ・リード(同)と合併し、新会社「SANKEI」として建築と不動産のワンストップサービスを開始した。変革の時代を迎えた住宅業界にあって、地域工務店としてその先を見据える湯浅岳雄社長に話を聞いた。

熟練の専門家集団

建築会社のサンケイ建匠と不動産会社のサンケイ・リードの合併は3年前から準備が進められてきた。2018年8月からサンケイ建匠の湯浅社長がサンケイ・リードの社長を兼任。時間をかけて体制づくりを行い、今年4月に「SANKEI」として新たなスタートを切った。長く地域に親しまれてきた「サンケイ建匠」の名は建築部門のブランドとして残した。

湯浅氏が構想したのは、「不動産と建築のワンストップサービス」。資金計画や土地取得から施工、アフターメンテナンス、将来のリフォーム、売買まですべて一括で対応するものだ。

新会社の強みは、建築にも不動産にもそれぞれの分野で熟練した専門家がいること。彼らがつながることで「さらに強化できる」と考えた。
住宅を取り巻く時代の変化も感じている。かつてサンケイ建匠で家を建てた顧客から「高齢者施設に入る」、あるいは「子世帯と同居する」などの理由で「持ち家をどうしたらいいか」といった相談が寄せられるようになったという。

サンケイ・リードの顧客であるアパートオーナーたちも世代交代の時期を迎え、「相続対策に何をしたらいいのか」などの悩みを抱えているそうだ。

建築と不動産が一体化すればリフォームや建替えに対応し、同時に賃貸や売買を手掛けることが可能になる。顧客一人ひとりに一番良い方法を提案でき、まさに「一生のお付き合い」がより深く実現する。

この合併には、もう一つ別の思いもあった。会社を継承するためには若い世代を育成しなければならない。しかし、社員が数名の会社のままでは若手を受け入れるキャパシティがない。

合併することで受け皿が大きくなり、若い人材を効果的に採用し育成することが可能になった。今後は20〜30代の若手を能力に応じて随時入社させる意向だ。

 

住宅ブランド「サンケイ建匠」の家

 

 

 

 

社員の健康が土台

合併に向けた取組みとして職場の環境を整えることも行ってきた。サンケイ建匠はサンケイ・リードとともに19年5月に地元の西区八軒に新社屋をオープン。社員も来客も心地よく過ごせる場所をコンセプトに、木を多用したカフェのような内装を施した。

花や緑をふんだんにあしらい、社員一人ひとりのデスクにも花を飾った。一週間ごとに生花店から全員分の花を取り寄せており、社員が自分たちのデスクに愛情をかけて生けている。そのため季節感があり、癒しの効果もある。

湯浅氏は「社是である『人を幸せにしよう』を実現するためには、まず自分が満たされていなければならない」と話し、社員の心と体の健康を大切にすることに意識して努めてきた。健康の土台になる「食」に関心を持ち、無農薬で作った農家のお米を毎月社員全員に配布しているという。

昨年は社屋の駐車場の一角にプランターを並べ、サンケイファームと称して野菜の栽培を行った。今年はさらに栽培する敷地を広げる予定だ。

働き方改革もいち早く実践してきた。残業はなく、就業時間は建築部門が午前8時から午後4時30分、不動産部門は午前8時30分から午後5時。いずれも休憩1時間で実働が7.5時間だ。加えてフレックス制も導入し、希望する社員は午前7時から午後9時の間で実働7・5時間を選択できる。

 

新社屋はカフェのような心地よさ

規模拡大を求めず

湯浅氏はこれからの工務店のあり方として、「規模の拡大を求めない」ことを掲げる。もともと建築部門のサンケイ建匠は、本社から30㎞圏内、年間12棟までの施工に限定してきた。一棟ごとに顧客と深く関わり、少数精鋭で高い品質を維持するためだ。

今後、住宅業界は人口減少とそれに伴う国内需要の縮小が顕著になる。また、リーマンショックや震災、コロナ禍に続いて、この先も思ってもみない情勢の変化があるかもしれない。住宅産業を含め様々な業種で会社が淘汰される時代に入っている。

付加価値を高めて顧客の満足を得ることができれば経営は安定し、外的要因に左右されることもない。実際、同社はコロナ禍にあった前年度も例年並みの売上げを担保しており、とくに影響はなかったという。 「淘汰の時代が進むと本物だけが残る」と湯浅氏は確信している。