元気な工務店

新たなブランドイメージ構築へ

辻木材(北斗市、辻将大代表)は8月7~10日の4日間、函館市石川町に新築したモデルハウスを公開した。同社が追求する快適な住まいの基本性能とトータルコストのバランス、そしてデザイン性でも新たな提案を盛り込んだ「フラッグシップモデル」となる。完全予約制で13組が来場。2日間のプレオープンを合わせると60組以上が現地を訪れ、設計のポイントとなる部分を実際に見て体感した。

全館空調を初導入 夏の道南を快適に

辻木材は昨年、創業100周年の節目に4代目の辻将大代表が就任。それまでのローコスト路線から、高断熱・高気密で耐震性能に優れた高付加価値の家づくりへと大きく舵を切った。

標準仕様として、断熱性能はHEAT20のG2グレードに相当するUA値0.28W/㎡K以下、耐震性能は許容応力度計算による耐震等級3を全棟で取得しており、今回公開されたフラッグシップモデルハウスもこれに準ずる。

木造軸組工法2階建で延床面積は146.66㎡。断熱仕様は軸間にセルロースファイバー105㎜を充填し、フェノールフォーム30㎜(8月以降契約の標準仕様は45㎜となる)を付加。天井はセルロースファイバー300㎜~400㎜を吹き込み、床断熱はフェノールフォーム45㎜と60㎜の2層張りとした。開口部はトリプルガラスの樹脂サッシを使用。UA値は0.25W/㎡K。相当隙間面積は0.4㎠/㎡。第1種熱交換換気システムを採用している。

同社初の全館空調モデルで、小屋裏に設置したエアコン1台で全室の冷暖房を行う。設計した代表の辻氏は「北海道の道南地域でも近年では冷房としてのエアコンが必要不可欠となってきているが、冷房負荷は本州ほど大きくはないので十分に快適な温湿度を実現できることが分かった」と手応えを語る。

始まりはデザイン

性能面では現在の同社のスタンダードを示しつつ、デザイン面では同社の新たなブランドイメージを打ち出すような意欲的な提案を盛り込んだ。「性能とデザインの一方を重視するのではなく、どちらも両立できるということを感じて欲しかった」と辻氏。

建築地は北東の角地で、東側が狭い台形の区画。南側はすぐに隣家に接しており、西側には4階建てのマンションが建っている。決して自由度が高いとはいえない立地条件で、もっとも目につく建物北面のファサードのデザインを核として設計をスタートした。

通常、間取りから設計を進めていくと建物の外観は合理的な形に落ち着くが、このモデルハウスでは建物の印象を決めるファサードのデザインを優先し、そこから間取りを整理した。

例えば2階の北側に水回りがあり、キッチンの背面や浴室などに同じ大きさの窓を配置したが、その横のランドリースペースは用途上なるべく窓を大きくしたいため、ルーバーで隠して外観のバランスを守った。玄関ドアもインナーガレージの中に隠し、外観では見えないようにしたことで、建物全体のすっきりとした印象を際立たせた。

 

ナチュラルなリビンングダイニング

明るい2階LDK

もう一つの設計のポイントは、立地条件から「日当たりにはあまり期待できない」という来場客の先入観をいい意味で裏切る空間を作ること。そのためにLDKを2階に配置し、南東側をバルコニーにして十分な光を取り込んだ。階段を上がって2階リビングに入った途端の明るさが大きなインパクトとなる。

リビングの真下はインナーガレージ。壁だけでシャッターのないセミオープンタイプだが、リビングの床面をセルロースファイバー300㎜とフェノールフォーム80㎜で断熱し、ガレージからの冷気が伝わらないよう設計した。

躯体全体の断熱性能が高いために遮音性も高く、「1階の寝室でも外の物音が気にならない」と来場客の反応は好意的だったという。

ベランダから光を取り込んだLDK

既存の殻を破る

元々ローコストに軸足を置いていたこともあり、モデルハウス建設に積極的ではなかった同社だが、今回のモデルハウスで顧客からさまざまな反応があり、「改めて気付いたことが多かった」と辻氏は振り返る。「以前はローコストだからここまでしかできないと自分たちで線を引いてしまっていたが、地場の工務店だからこそ、その風土や土地に合わせた提案ができることを積極的に見せていけないとこれからは生き残っていけないと思う」

今回、グランドオープンの4日間で来場した13組のうち10組から次回の商談の予約が入っているという。今後も定期的に公開日を設ける予定で、辻氏自ら設計のねらいなどを伝えていく。さらに「今回の土地では2階リビングという提案だったが、他にも当社から提案できることはたくさんある」と、この先の新たなモデルハウスの展開にも意欲を見せる。